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第37話 いざマニュアル車で市内へ [ロンドン]

カウンターでキーを渡され、車が置いてある場所、ガソリン注入口の位置とディーゼル車ではないことの念をおされただけで、誰も車のところまでついてきてはくれない。あとはご勝手にどうそということなのだろう。今日明日の二日間私たちの命を預ける車、シルバーのフォードフォーカス。事務所裏手にある半地下のハーツ専用駐車場に停まっていた。日本で私が乗っているマーチをちょっとサイズアップした程度の大きさで扱いも楽そうだ。マニュアルシフトということを考えなければの話だが。駐車場はつめれば30台以上の車が停められるだろうが、そのときはフォーカス以外に2、3台があるだけ。それも何かの修理中のようだった。
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とりあえずハッチバックを開けてスーツケースを積み込む。後部座席を利用することなくスーツケースは収納された。さあいよいよ出発である。エンジンをかける前にシートに座りハンドル周りやインパネのスイッチ類を確認する。走行距離は1万キロにも達していない。新車といってもいいだろう。右ハンドルだし、操作方法に大差はないに違いない。英国と日本の違いこそあれ同じ四輪の車である。恐れることは何もない。私は自分にいいきかせた。スターターを回すと国産車にないお腹に多少響く心地よいエンジン音が伝わってくる。ギアをローに入れゆっくりとクラッチを離し、アクセルを踏み込む。プスンプスン。車は少し前のめりになるように停まった。数年ぶりのマニュアル車操作である。エンストも仕方あるまい。助手席の奥さんの表情が不安そうだった。運転する私も不安なのだから当たり前である。
なんとかクラッチとアクセルの感覚をつかみ私はロンドン市街地デビューすることにした。駐車場内を低速で数十メートル走ると前にゲートがある。バーがおりていて停まらざるを得ない。せっかく動き出したというのにここでとまれというのか。私はギアをセカンドに入れることなくクラッチを踏み、惰力でゲートまで車を移動させた。ゲートにつくと、ゲート横の建物からネクタイをしめたジェントルマンが出てきた。「契約書をみせてください」という。大胆にも勝手にここから車を盗み出す輩でもいるのだろうか。
契約書を確認すると前のバーがあがった。私は再びクラッチとアクセルペダルを巧みに操り発進させた。すると前方にあまり緩やかとはいえないスロープが。半地下から地上に出るにはどこかで登りを体験しなければならないことはわかるがいきなり出現するとは神様も意地が悪い。まして登りきったら道路のはずである。一旦停車しないわけにはいかない。つまり坂道発進をしなくてはならないはずだ。緊張でハンドルを握る手が汗ばむ。坂はアクセルを踏み込めばなんなく登る。登りきったところに歩道がある。その向こうが車道だ。大通りを折れた脇道ではあるが通行量は結構ある。私は歩道の手前、半地下から地上にでる寸前で車を停めた。左右を見て人も車もこないことを確認した後に道路に出ることにした。車の後部はまだ坂道にある。これまでのようにアクセルを緩やかに踏んだのでは車は動かない。多少強めにアクセルを踏み込む。と同時にクラッチを緩める。エンジンの回転があがる。でも車は動かない。さらにアクセルを踏み込む。このまま思い切りアクセルを踏めば車は瞬時に向こう側の建物に突っ込むかもしれない。はたまた宙に舞って飛び立つかもしれなかった。
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