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第54話 おわびのしるし 夜のリヨン案内 [リヨン]

ちょうど15分ぐらいした頃、舗装されていない道路を軽い砂埃をたてながら黒いジャケット姿の背が高く細身の男が走ってくる。フランソワだった。彼はすぐに私たちのことを彼が忘れた顧客であると理解したようである。当然だ、到着ロビー前に立っているのは私たちだけだったから。一般のタクシーは出発ターミナル前の道路に入れるが、個人タクシーはターミナル内への進入を許されてはいないらしく、彼の車はターミナルビルから少し離れた場所に駐車されているらしい。その駐車場所に向けて空港内を移動する間、彼は私たちの今後のスケジュールなどを尋ねてきたが、会話の合間にも何度か今日の不手際を詫びる言葉をはさんでいた。そんな彼の態度から駐車場所に着く頃には私たちの彼に対する怒りは消えていたのである。
彼の車はプジョーやシトロエン、ルノーといったフランス車ではなく、なんとスウェーデン車ボルボのワゴンだった。スーツケースを積み込んだ後、私は当たり前のように奥さんとともに後部座席に乗り込んだのだが、彼は助手席に座ったらどうかとすすめる。文化の違いなのだろうか。前の方が広いというのだが、自家用車ならともかく定員いっぱいでもないのに助手席に座ることに抵抗があったので丁重にお断りした。なぜフランス車にしないのかと尋ねるとボルボは頑丈だからという。本当はレクサスが欲しかったが高くて手がでなかったそうである。折角フランス車に乗れると思っていた私はがっかりしたが。
空港からリヨン市内までは30分もかからなかった。途中奥さんに折角フランスに上陸したのだからフランス語を使ってみたらというと、フランソワにフランス語で話しかけた。すると、彼は驚いたようにフランス語が話せるのかという。話せるから話しているのだ。当然社交辞令だろうが、私が奥さんのフランス語はどうかと尋ねると「上手い」という。雇ってくれるかというと「もちろん」と答えが返ってきた。その言葉をきいて、これでフランス滞在中、英語の通じないド田舎に紛れ込んでもなんとかなるだろうと私は安堵したのである。
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市内に到着した頃には陽が完全に沈んでしまっていたため黄昏をローヌ川、ソーヌ川を見ることはできなかった。しかし空港に私たちを待たせたことを悪く思ったのか、フランソワが料金は予約時のままでいいのでリヨンの夜景を見せてくれるという。どこかに拉致監禁させられる心配もなさそうだったので私たちは彼の提案を受け入れた。車は人通りもまばらな旧市街を通り、急勾配の狭い道を走り、旧市街の背後にある丘を上っていく。やがて駐車場に到着。そこはリヨンの観光スポットのひとつフルヴィエールの丘にあるノートルダム聖堂だった。車を降りフランソワの後を着いていくと目の前にはリヨンの夜景が拡がっていた。旧市街、新市街が一望できる。オレンジ色の灯りだけがきらめく美しい光景である。新市街にある唯一の高層ビル、えんぴつビルとも称されるクレディリヨネビルがひときわ目立つ。私たちの宿泊するベルクール広場はあの辺りだと教えてくれる。この夜景を見ようと思ったら、ホテルからタクシーかバスでこなくてはならない。料金もかさむ。しかし今宵はサービスだ。フランソワ、予約を忘れてくれて、迎えが遅れてくれてありがとうと私たちは言いたかった。

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