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第90話 夜の訪問者 誰かが部屋に? [ニュイサンジョルジュ]

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豪華なディナーを終え、奥さんは広いキッチンで食器洗いをしている。私はリビングのソファーに腰掛け何をするでもなく天井を眺めていた。VIPアパルトメントのリビングは広く天井が高い。でもホテルのように大型のテレビが設置されているわけではない。アパルトメントの横にある道路を走る車のエンジン音が窓を通して聴こえてくることもない。日中だって通行量は少ないし、夜は皆無に近い裏道だから。ただただ静かなブルゴーニュの夜、時が過ぎていくことを感じるしかない。これが人間本来の夜の過ごし方だと私は思った。
キッチンからの水の音、食器同士が触れる音を聴きながらうつらうつらしていると、背後のドアがキーという音を立てて開いた気がした。鍵はかけたはずである。でも開錠せずともひと蹴りすれば容易に開きそうなドアであることはわかっていた。リビングに冷たい風が吹き向ける。フェブレイさんでも訪れてきたのかと振り返った。しかしドアの前には誰もいない。ドアも開いていなかった。キッチンから洗い物を終え、コーヒーカップを手にリビングにやってきた奥さんにその話をすると気味が悪いという。いわれて見れば確かにそうだ。ドアも開いていないのに風が通るわけもない。ドアの隙間から入るなら終始風が抜けていなければならない。
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私は直感した。きっと先代のフェブレイさん、私の良く知って入るフランソア・フェブレイさんの父君ギイ・フェブレイさんが私たちを表敬訪問してくれたに違いないと。父君は数年前に他界している。はるばる日本からやってきた私たちに挨拶にきてくれたのだろう。もしかすると父上はその夜ずっと私たちの部屋に滞在し、昔のニュイサンジョルジュの様子や、若かりし頃の息子の失敗談などいろいろな話をしてくれていたのかもしれない。私たちがフランス語による先代の話を理解できず子守歌代わりにして深い眠りについただけで。

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