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第103話 皿いっぱいの牡蠣を [オンフルール]

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空も漆黒に染まった7時半過ぎホテルを出る。もう傘は不要だ。さすがに10月、夜になると海から吹く風の冷たさを感じる。港に行くと湾を囲むレストランには灯りがつき道路には今夜のお食事処を見つけるべく散策する観光客がかなりの数歩いている。開店と同時に飲み始めたグループもあるようで、時折そこかしこのレストランから叫び声やら大きな笑い声が聞こえてくる。
私たちは湾の周囲を一巡りした後、ディナーを楽しむべくレストランに入った。入ったといっても仰々しいドアを開けたわけでもない。間口も狭く、外にテーブルが4卓、中に5,6卓あるだけの小ぶりなレストランは扉も窓も開け放たれ、私たちがドアの外に立ち、「今夜はここで食べますよ」との意思表示をするだけである。私たちの存在に気づき、奥からテレビタックルに出ている政治評論家の先生のような頭をした店主らしきおじさんがでてきて、中で食べるか外で食べるかときく。もちろん奥さんが気兼ねなく煙草の吸える外の席を指定した。ヨットやクルーザーの間から吹いてくる風が多少ひんやりしても、煙草を吸うためには我慢できるようである。喫煙者の気持ちはわからない。温かいスープを味わい、冷えたワインをたくさん楽しめば、体は自然とあたたまるだろうし。
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フランス語でしかかかれていないメニューを眺め、奥さんのたよりない翻訳を参考にテーブルを飾る食材を選んでいった。潮の香を感じながら牛肉を食べるような贅沢を私たちはできない。それぞれ異なるオードブルと魚介類のメインディッシュを選び、そして食材を引き立たせるバイプレイヤーとしてサンセールをオーダーしたのだった。旅行も終盤、特に600キロにもおよぶ、それも慣れない右側通行のドライブを終えて疲れきっている状態で生ものを食することは危険だとはわかっているが、新鮮なのだから当たるわけがない。妙な自信というか、ここで食わずしてどこで食う、というような意地が私にはあった。だからもちろん生牡蠣のオーダーも忘れない。大皿いっぱいに盛り付けられた大ぶりの生牡蠣が目の前に運ばれてきたときには口からよだれがあふれ出しそうだった。その夜、私たちがその店の最初の来店客であったが、てんこもりのソルベ(アイスクリーム)のデザートを平らげ、総額がちょうど100ユーロになるようチップの金額を書き込んだクレジットカードのスリットを店主に渡して店をでる頃には、何組かのお客さんで店は結構賑わっていた。
ホテルへの帰路、開店時間をたずねたときの態度の悪かったレストランの前を通ると、ギャルソンが外に立てられたメニュー盤の横に立ち獲物を捕まえようとしていた。だがその目は死んでいる。店の外の席には誰も座っていない。店の中にもひと気は無い様子。テーブルを覆った白いテーブルクロスもきれいなままのようだ。日曜の夜は短い。間もなくラストオーダー、そして閉店ガラガラとなろう。今日の売上はゼロというところか。私はギャルソンに日本語で「今夜はチップも取り損ねたし、儲けそこなったな。ざまあみろ」と笑顔でつぶやきながら彼の前を通り過ぎた。

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