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第132話 怒鳴りあいには聴こえないフランス語 [パリ]

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ベラールさんのミニはオープントップになっているので座席から空が見える。私は時折そこからカメラを突き出し、パリの街並みをカメラに収めていた。
マレ地区に向かう途中の大通りを離れた一方通行の路地でのこと。ベラールさんが歴史的に価値のある建物だとか説明しながら、結構ゆっくりと車を走らせていた。私が写真を撮ろうとすると、さらに停まりそうなスピードに落としてくれる。私はサイドミラーでミニの背後にゴミ収集車がずっとついていることに気がついていた。ベラールさんがその存在に気づいていたかどうかは不明だ。ちょっと道が広くなったときである。ゴミ収集車がスピードをあげミニの左側から抜きにかかった。そしてミニの横につくとミニを見下ろす収集車の助手席から若い男がベラールさんにむかって拳を振り上げながら怒鳴った。「○×△、○×△、○×△、○×△、ムッシュー!」と。「○×△、○×△、○×△、○×△」ベラールさんも少しばかり声を荒げてジェスチャー入りで反論しているようだった。
私が想像するには男が「何ちんたら走ってんだよ、このうすらぼけ」といったに違いない。そしてベラールさんは「美しいこのパリの街を、日本からきたお客さんにみせとるんだす、そんなに急いではるんならTGVにでも乗って移動されたらいかかでっか、このおたこなすさん」と言ったのだろう。しかし、男のムッシューという一言で、日本の道路や交差点などでドライバー同士が罵り合っている光景とは別の世界を感じさせるのは不思議だ。罵り合いもお洒落、クールである。フランス語のサウンドがそうさせるのか、汚い言葉もパリの街が美しく包み込んでしまうのだろうか。ベラールさんは若者に怒号を浴びせられたことも意に介さず、その後も平然と路地をゆっくり、あるときはアクセルを踏み込んでマレ地区に向かった。
私は、前方の路上に秋の日差しをうけてまどろむ白い猫を発見した。しかしベラールさんは左右の建物の紹介をしていてあまり前方に注意をはらっていない様子。「あっ」と声を出す前にミニは猫を通過した。「ギャッ」という泣き声がきこえたようにも思えたのだが。車を降りてから奥さんに「さっき猫轢かなかった?」とたずねると、「危なかったけど左に逃げたよ。振り返ったら歩道を歩いてたから」。それをきいて安心した。パリの猫は俊敏である。

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