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第87話 コートドールでぶどうを拾う [ニュイサンジョルジュ]

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アパルトメントで遅いランチを済ませた私たちは車でブドウ畑へ向かった。ニュイサンジョルジュの中心街を外れればそこにはブドウ畑しか存在しない。ここはブルゴーニュ、コートドール、黄金の丘なのだから。
誰でもブドウ畑に入っていいのかどうかは知らない。でもクーシェの親切なおばさんにニュイサンジョルジュへの道順を教えてもらった後に走ってきた74号線と並行して丘の中腹の道は両側ともブドウ畑だ。ちょっと横道にそれれば畑の中。立入禁止との立て看板もないし誰でも入れてしまう。道に入るだけで、何も畑の中にまで踏み込むわけではないから許されるだろう、と勝手に解釈して車で畑のわき道に侵入した。自分の立っている周囲の畑がフェブレイ社の所有畑かどうかはわからない。でもワインのラベルに記載されるような有名な畑ではなさそうだ。きっとこの周囲で収穫されたブドウは、Nuits Saint Georges あるいはBourgogne Rougeとして出荷されるのだろう。ロマネコンティだろうが名もないテーブルワインだろうが元は同じ土で育ったブドウ。素人の私がみたってブドウの良し悪しがわかるはずもない。味見したら多少違うのだろが。でなければ価格に数百倍もの差が生じるわけもない。それとも製造過程での手のかけ方だけで美味しさの差がでるのだろうか。
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車を停めたすぐ横の畑の苗の間に落ちているひと房ブドウがあった。それを拾って臭いをかいだが落下してから日が経っていないようで痛んでもいない。持ち帰ってデザートにする手もあったが、途中で職務質問されて所持品検査されたら、警官は私たちがこのブドウは拾ったといっても信じてはくれないだろう。銀婚旅行でブドウ泥棒の罪で獄中経験はしたくないのでブドウは元落ちていた付近にそっと戻した。存分にコートドールの空気を吸った私たちは夕刻に催されるテイスティングのためアパルトメントに戻るべく再びオペルに乗り込む。
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車の周囲は見渡す限りブドウ畑だ。圧巻である。こんな景色をみることができるとは、ワイン輸入会社にお世話になった四半世紀近く前には想像すらしなかった。これも長年誕生日カードとクリスマスカードを送り続けたことへのご褒美なのだろう。秋の柔らかい日差しをうける周囲のブドウの葉っぱたちが揺らいだ。「この地にこれてよかったね」といっていたのかもしれない。
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第86話 マルシェ [ニュイサンジョルジュ]

ワインショップをでてさらに進むと通行量もかなりある道路にでた。どこにあるかも定かでないフェブレイ社を捜し求めていた昨日、この付近も通過した記憶がある。通りのむこうに周囲に小型トラックやライトバンの停まった建物がある。市場に違いない。ブルゴーニュの庶民がいったいどんな食材をどのような値段で手に入れているのかは興味深い。私たちは迷わず通りを渡った。
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市場の中に入るとすでに大半の店は片付けおわり、残って営業している店も撤収作業をしながら、飛び込んでくる獲物を待ち構えているようだった。市場といっても鎌倉駅近くの青果市場とは一味違う。野菜果物を販売している店もあるが、スーパーにあるような、中のみえる大型冷蔵ケースを持ち込んでいる肉やさんや、さすがおフランス、日本の高級スーパー以上の品種を取り揃えチーズを売っている店もある。チーズに日本と価格差があることは一目瞭然だった。ここにはこの周辺で生活する人しかこないはずだ。ツーリスト価格にしていては商売にならないのである。チーズは日本までお持ち帰りできないし、VIPアパルトメントの冷蔵庫に何種類かのチーズがあったことも確認済みだから用はない。
私たちはイチゴふた箱だけを平台に残してほぼ帰り支度を終えた八百屋さんの前で立ち止まった。冷蔵庫に果物はなかった。今夜就寝前にイチゴが食べたい。あまれば明日の朝、イチゴジュースにすることも可能だ。最後に残っているイチゴだからまけてくれるに違いないと考えた奥さんは、親父に全部買うからいくらにしてくれるかフランス語で尋ねた。全部買ってもこの値段。びたイチもん、いやびたイチユーロまけないという。親父は強気だ。フランス語が流暢に話せれば、「今日この市場に来る人はもういないだろう。明日になったらこのイチゴは店頭にはだせまい。これを持ち帰ってすてるか自分の腹におさめるのと、半値にしてでも売って現金化するのとどっちがいい」と、いいたいところだが、私はフランス語が話せない、奥さんもそこまでは交渉できない。ここでイチゴを買わないと一生口にすることがないかもしれないというネガティブな考えに負けた私たちは、結局提示価格のままイチゴを買ったのである。フランスの農民は強いと実感した。
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市場をでて再びニュイサンジョルジュ銀座商店街へ。肉屋では今夜のディナーの惣菜になるようなパテなどを購入した。ご本人の了承をえて何年か前までは看板娘だったに違いない店員さんの姿も撮影。日本の商店街の肉屋ではできない芸当である。食器屋さんでは多分made in 東洋であろう猫の形をした箸置き(こちらではナイフフォーク置きというべきか)を購入した。また不気味な子供の頭と大きなしらみの模型がディスプレイされたショーウインドウを発見。
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薬局だった。なんでもフランスでは今でも季節によって子供たちの間にしらみが流行るとか。しらみの模型は感染防止薬品メーカーの販促用品なのだろう。フランスにしらみとは、世の中まだまだ知らないことがいっぱいあるものだ。すでにランチタイムも終盤。私たちは空腹に気づき、朝食の残りの食材で腹ごしらえするため一旦アパルトメントに戻った。

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第85話 いざ真昼のニュサンジョルジュ商店街へ [ニュイサンジョルジュ]

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ゆったりとした朝食を満喫した後、私たちはニュイサンジョルジュ銀座を散策に出かけた。昨夜訪れたレストランのある商店街である。昨日同様、VIPアパルトメントの近くで通行人に出くわすことはなかったが、各店がオープンした直後の商店街にはすでに買い物客がいた。今朝アンさんが購入したパン屋さんの店内は昼食、あるいは今夜のパンを求める客で賑わっている。何を買うでもなくショーウインドウを覗き込みながら石畳の商店街を歩き続けると婦人向け洋服屋さんの前の街路樹にリードを結ばれ、シェパードがおとなしく座って店内の様子を伺っている。ご主人様が買い物を終えて帰ってくるのを待っているのだろう。商店街の中ごろには小さな教会もあった。その前のちょっとした広場には水のみ場が。人のためか、犬のためか。時計の針の進むスピードが日本とはまったく異なる世界に私たちは今いるのだ。すると教会の鐘の音が商店街に響きわたる。腕時計に目をやると正午だ。商店街の買い物客にお昼を告げる鐘なのだろうか。
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商店街を抜けきるとそこはニュイサンジョルジュ駅だった。日に何本の列車が通るのかはわからない。レンタカーを利用しなければ、リヨンからここまで各駅停車を利用しなくていけなかったのか。もしくは昨日車で迷い込んだディジョンまでまずTGVか特急列車に乗って行き、普通列車に乗り換えて少し戻ってくるのだろうか。いずれにしても大きなスーツケース2個を引きずって、乗り換えありの列車の旅はしんどそうである。
商店街をとりあえず制覇した私たちはUターンして今歩いてきた道を戻ることにした。途中わき道にそれると大きなワインショップがあった。私はセギノールまではいかずとも、ブルゴーニュにきた記念に、自分へのお土産として気に入ったソムリエナイフが見つかったら買おうと決めていた。店内に入ると入り口付近には木箱に無造作に積み置かれた廉価版のワイン。店内の壁際のセラーには高級ワインが配されている。店のスタッフがいるにはいるが、「へいいらっしゃい。どんなワインをお探しで。これなんてお買い得でっせ」などとすりよってこない。入店したときにボンジュールと声をかけられただけで、一定の距離をおいて私たちを観察しているようである。ワインの産地として名の知れたでニュイサンジョルジュだから日本人の来店も少なからずいるはず。日本人受けしようと思って「シャチョウサン」と声をかけてこないところも真剣に商売をしているようで好感がもてる。
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壁際にならぶ畑名のついた高級ワインは日本の価格と比べて驚くほど安いというわけでもなかった。予想以上に価格差がない。フランス国内でも値上がりしているということなのか。来店客の大半が観光客なので、高めの価格設定をしているのだろうか。だいたい高級レストランで食事をするときをのぞいて、一般的なフランス人が高級ワインを躊躇なく購入し、抜栓しているとは思えない。ソムリエナイフもいくつかおいてあったが、ロフトや東急ハンズあたりで見かけるものと変わらずインパクトがない。私はソムリエ世界一になった田崎真也とかつて一緒に仕事をしていたことがあると店主に自慢することもなく店をあとにした。

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第84話 優雅な朝食 [ニュイサンジョルジュ]

ブルゴーニュの収穫期の朝は早い。目覚めると窓の外からベルトコンベアの動く音がする。ベッド脇のテーブルに置かれた腕時計の針は8時を少しまわったところ。ベッドからでてカーテンをあけると眼下の中庭では、すでにぶどうの選別作業が始まっていた。フェブレイさんは繁忙期なので朝早くからうるさいかもしれないといっていたが何時から彼らは仕事をしていたのだろうか。コートドールの丘の上に広がる空には雲ひとつない。今日は雨の心配はなさそうだ。
夜7時を過ぎたらシャワーは使用しないで欲しいといわれていたので、昨夜はレストランから帰宅後そのままベッドにもぐりこんだ。午後7時以降のシャワー禁止令は、皆朝が早いので夜は早くに眠りにつくから無用な音はたてないで欲しいということのようである。シャワールームの下が朝早くから働く人たちの仮眠室になっているのだろう。そのかわり朝は早くからシャワーを使っても問題ないといわれていたので私は着替えをもってシャワールームに向かった。ホテルのスイートルームよりもはるかに広く、だだっ広いキッチンまであるのにバスタブはない。日本とフランスの生活習慣の違いか。バスタブで足を伸ばして「あー、いい湯だ」という気持ちはフランス人には到底理解できないに違いない。さっとシャワーを浴びてから香水を体中に撒き散らしてさっぱりした気分になっているのだろうか。香水より「バスクリン」や「旅の宿」といった入浴剤の方がよほどリラックスできると思うのだが。
入浴後は朝食である。ロンドンやリヨンのホテルのように階下へ下りていってもレストランはない。日本の我が家同様、お湯を沸かし、紅茶を入れ、トースターでパンを焼き、フライパンで目玉焼きを作らなければならない。ここには必要なものはすべてある。冷蔵庫に入ったバターも牛乳も卵も、私たちのために用意したものだから遠慮せずに使っていいといわれている。バターなど2泊3日の滞在では食べきれない。余ったバターはスーツケースに入れて持ち帰りたいぐらい大きかった。間違いなくフランスの乳製品の価格は安い。高速道路の両側には、絶えず牛が見えていたからそれも頷ける。
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昨夜レストランに向かう途中でアンさんが「ここのパンは美味しいから明日の朝届けてあげる」といっていたことを思い出した。社交辞令かもしれないが、シリアルとベーコンエッグではなんとも味気ない。バゲットやクロワッサンがあれば朝の食卓は一気に華やぐに違いない。私は確認のため開錠してドアをあけた。開いたドアの左右を見回したがパンらしきものは何もない。もちろん日経新聞も配られていない。念のため、らせん状の階段おりていく。すると館と外との境になっている扉の横にある下駄箱よりはるかに大きな戸棚の上に、バゲットが半分飛び出した状態の袋が置かれていた。アンさんは約束を忘れてはいなかったのである。

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第83話 レストランでのアクシデント [ニュイサンジョルジュ]

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食事中アクシデントがあった。私たちの隣のテーブルには男女二人ずつ、4人の外国人が私たちに背を向けるかたち座りディナーを楽しんでいたのである。彼らは英語で話していたので地の人間でないことは私でもわかった。フェブレイさんもアルコールが入り少しばかりテンションがあがり始めた頃、何かの話の途中で両腕を振り上げるおおげさなアクションをしたのである。腕を振り上げた瞬間、フェブレイさんの前にあった水の入ったグラスに手先が触れ、グラスは水を撒き散らしながら宙に舞い、やがて万有引力の法則にしたがって落下した。そして1脚のグラスが、いくつかのガラスの塊に変化したのである。水こそ隣の外国人にかかることはなかったが、ガラスの破片は彼らの足元にまで飛散したようである。店主を呼びガラスを片付けるよう支持するフェブレイさん。もちろん隣人たちに対しても深く詫びていた。
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隣人たちはカナダからはるばる訪れていたワインを愛する観光客だった。フェブレイさんが名をなのると、彼らは驚いたようである。フェブレイは北米でもブランド力が高いのだろう。彼らにしてみれば何でフェブレイのトップが東洋人の相手をしているのか不思議に感じたに違いない。会話の途中で時折私たちに奇異の眼差しでみる彼らをみてそれを感じ取ったのか、フェブレイさんが日本からきた友人であると私たちを紹介した。
ガラス破片の回収作業によってディナータイムを中断せざるを得なくなった以外、何も彼らに実害は何もない。しかし優しいフェブレイさん、彼らのために明日試飲会を開いてあげましょうと提案した。もちろん彼らが拒否することはなかった。明日の夕刻は私たちだけのために試飲会をしてくれることになっていたが、日中は日中で彼らのために試飲会を開くはめになってしまったのである。想定外の試飲会が明日のスケジュール表に組み込まれた瞬間、アンさんがどのような表情を浮かべたのかを、残念ながら私は見逃してしまったが。
レストランをでてから先ほどよりさらに静まり返った商店街を抜け、途中で記念写真を撮りながら寝床に向かう。フェブレイさんはとても上機嫌だったし、アンさんも体を寄せ合うような記念写真ポーズにも協力してくれた。こうしてニュイサンジョルジュの夜は更けていった。

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第82話 鳩の活き造り [ニュイサンジョルジュ]

店主がフェブレイさんにワインリストを手渡す。はたしてフェブレイさんは何を私たちに振舞ってくれるのか。地域柄、ボルドーのグランクリュクラスということはあるまい。ロマネコンティもありえないし、ちいとランクを下げてエシェゾウクラス?それだってかなりのハイレベルだが。それが無理でもブルゴーニュのグランクリュ、Cortonクラスがでてくるのか。私の期待は膨らむ。しかしフェブレイさんが選択したワインは店の内装同様シンプルだが、納得させる銘柄だった。料理はすでにコースメニューとして予約時に伝えてあったようで、私たちはオードブルからデザートにいたるまで、そのつど、何を、どちらをチョイスするかを尋ねられた。
ワインの選択を終え、各自オードブルをチョイスして店主がテーブルを去ると、私の正面に座るフェブレイさんが私の隣に座るアンさんの手をとり、手の甲にキスをした。それが何を意味するのかわからないが、その雰囲気から察するに単なる日頃の感謝の意味であったとは思えない。なぜならキスされたアンさんはちっとも嬉しそうではなかったし、キスした後のフェブレイさんの顔も少しばかり硬直しているように見受けられたからである。これからテーブルに登場する本場のフランス料理の数々を想像して、性格異常者のように虚ろな目をしている私の奥さんはごまかせても、警察犬のような嗅覚と洞察力を備えた私をごまかすことはできない。「何のまね。こんなことで許されると思ってんの。この図々しい東洋人たちが一緒にいるときに誤るなんてどこまで卑怯なのあんたって人は」てなことをアンさんはいっていたのかもしれない。私が「今のキスは何?夫婦でディナーに行ったときの儀式?」と尋ねればよかったのだろうか。
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結局その晩、飲んだワインは赤白1本ずつ。白はBouzeron、日本では私たちがかつて勤めていた会社で輸入しているので、何度か我が家でも飲んだことがある。ロマネコンティの経営者夫妻が手がけた白ワインとして高い評価を受けているワインである。お料理はバターをいっぱい使ってまっせというこってり感はまるでない。ソースも含めどれも私好みのシンプルな味わいだった。和食器を連想させるお皿に美しく盛り付けられた料理を私たちは何ひとつ残すことなく食べつくした。もちろんカラフルなデザートまで。その夜に食した中で、私も奥さんも生まれて初めて口にするものがあった。ピジョン、鳩である。メイン料理の段になり、私たちは鳩かビーフかをチョイスすることになった。ビーフにも心は動かされたが、フェブレイさんの推薦もあり、せっかくの機会なので鳩を選択したのである。テーブルに運ばれてきたのは鳩の活き造りだった。皿の上に嘴を動かし助けを求めている断末魔の土鳩がいた。というのは真っ赤な嘘だ。ローストされた鳩は原型をとどめていない。でもよくみると表面に鳥肌がたっており、それが鳥であるということは判別できる。食感はチキンだ。もっとパサツイテいるのかと想像していたが、まさしく鳥である。鳩だから鳥なのだ。当たり前である。
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第81話 静かなニュサンジョルジュの夜の街 [ニュイサンジョルジュ]

フェブレイさんが迎えにきてくれるまでの間、私はシャワーを浴び、奥さんは落ち着かないぐらい広いリビングのソファーでしばし仮眠をとった。
7時半ごろフェブレイ夫妻に連れられてダウンタウンのレストランへ徒歩で出発した。すでに太陽は沈み闇夜である。村にはほとんど人が歩いていない。昼間も誰も歩いていないのだから当たり前かもしれない。ダウンタウン、村の商店街に入ると少なからず人は歩いていた。数少ない村のレストランに向かう人たちだろう。商店街に入るとすぐにパン屋さんがあった。アンさんがここのパンはおいしいから明日の朝届けてあげるといってくれた。その他にも色とりどりのパッケージに納まったチョコレートが並ぶスイーツショップ、洋食器屋さんやみやげ物屋さんらしき店もある。しかし、当然すべての店はすでにクローズ。いくつかの店舗がショーウインドウの照明を点けて、「明日いらっしゃい」と誘っているようだった。明日の日中、店の開いている時代に一度訪れてみる価値はありそうである。
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予約してくれたレストランは商店街に入って2,3分のところにある“ル・カボット”という店。ニュイサンジョルジュのみならずブルゴーニュ地域全体でも最近評価の高まっているお店とのこと。実際、帰国後日本で購入したフランスを特集した雑誌にもそのレストランは紹介されていた。
座席数は30もないかもしれない。5,6卓がそこそこのスペースを確保しながら配されている。雰囲気も超一流といわれる、真っ白なテーブルクロスに皺ひとつみつけることすら困難な格式ばったフランス料理店とはおおいに異なる。現代風の、といっても日本の著名な空間デザイナーが好むような奇をてらった作りではなく、いたってシンプルで落ち着く店だった。若い店主が今夜ディナーを楽しむテーブルまで誘導する。案内されたテーブルにくるとフェブレイさんは直ぐに座らず私たちを立たせたまま何か考え込んでいる様子。座る位置で思案しているようだった。「まあ適当に」という座り方は日本からきた賓客に対して失礼にあたるということなのだろうか。壁を背にしてフェブレイさんと私の奥さんがならんで座り、その反対側に私はフェブレイさんと、アンさんは私の奥さんと対面するよう座るよう指示される。ゲスト夫婦が並んですわるのではなく、このように交互に対面して座ることが正式らしい。
当然店主とフェブレイさんは顔なじみのようで、席につくと何か早口のフランス語で話しはじめた。「久しぶりデンナあー、フェブレイはん。お仕事でっか、こちらにはいつ戻ってキハったん」「いやスイスでのんびりしてたかったんだけどさあ。こいつら、アジアの外れ、日本、知ってる、日本?中国より向こうの国、ちっちゃい国よ、あそこから呼びもしないのにくるっていうんで。しょうがないから、嫌がる奥さんつれて、わざわざ俺もスイスからでてきたんだわさ。生魚食うような味なんてわかんない野蛮な連中だから昨日の残りもんのいいとこみつくろってだしといてよ」「がってん承知のすけ」といったかいわないかは不明だが、しばし親しげに話していた。

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第80話 奥様アンさま登場 [ニュイサンジョルジュ]

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大学の研究室といってもおかしくないが大きく異なるのは研究室の壁際の棚に、半世紀以上前のものと思われる数本のボトルが無造作に並べられていることだろう。キャップシールは開けられていないのだが、歳月を経るうちに蒸発したのか、ボトルの内容量は半分ぐらいに減っていた。ラベルの端が色あせてわからないが191何年のChassagne Montrachetもある。他にもMaconやブルゴーニュ地方で作られるブランデーのマールなど。どれも現在とはデザインが異なるがフェブレイ社のラベルが貼られている。私の奥さんと女性研究員のツーショットをカメラに収めた後、私たちはラボを出た。
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階段を下り誰もいない受付を通ってオフィス棟をでたとき、時刻は6時を過ぎていたが外はまだ明るい。フェブレイさんが今夜は村のダウンタウンにあるレストランに招待してくれるという。小さな村の小さなレストランだがとても評判の、おいしいレストランだそうだ。7時すぎに迎えにいくのでそれまでアパルトメントで待機するようにとのこと。その前に再びフェブレイ邸のチャイムを押すと反応があった。奥さんが帰宅していたのである。
ドアがあき、中から奥さんのアンさんがでてきた。私たち二人ともアンさんとは初対面である。フェブレイ社と取引のあるワイン輸入販売会社に勤めていたとき、フェブレイさんの奥さんはベトナム人らしいという噂があったが奥さんは間違いなくフランス人だった。ベトコンの娘だという話もあったが噂というのは恐ろしい。確かにベトナムで生活をしていたことはあるようだが。私の奥さんがフランス語で挨拶するとアンさんは「フランス語を話せるの」と驚いた様子。フェブレイさんも「上手に話す」と要らないフォローをしてくれた。その後アンさんは私の奥さんに話すときはゆっくりだが、とにかく滞在中ほとんどフランス語で語り続けたのである。
次は私の番。私はフランス語を話せないことを告げ英語で挨拶した。アンさんは毎年送られてくる私たちからのクリスマスカードや誕生日カードに大変感動しているという。私たちの家の住所をそらで途中まで口走ったときはこちらが驚いた。教会でキリスト像を前に祈りを捧げるように、私の方を向いて胸元で手を合わせて感謝の気持ちを伝える姿をみると、とても一夜漬けで私たちの住所を覚えたとは思えない。これだけ感動されると、こちらとしても4半世紀の間、一度も再会することはなかったもののカードを出し続けてきてよかったとあらためて思った次第である。ここでようやくお土産贈呈。ロンドンのサトウご夫妻同様、これは奥さん用、こちらはフェブレイさん用と説明の上、京扇子を手渡した。

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第79話 蜘蛛の想い出とラボラトリー(研究室) [ニュイサンジョルジュ]

15,6年前のことだ。Faiveley社の”Nuits Saint Georges”というワインを我が家で開けたときのこと。意地汚く最後の一滴までとグラスに注いだところ、葡萄の種皮やおりにしては大きい物体がでてきた。グラスを傾けおそるおそる見てみるとそれは何と蜘蛛だったのである。フェブレイさんのところのワインでなければ、すぐに買い求めた店舗に電話してクレームである。蜘蛛を口に含んでしまった。お腹が痛い、吐き気がする。湿疹がでた。それは大騒ぎして、1年はただでワインが飲めたかもしれない。しかし、フェブレイさんで作ったワイン。ましてお店で買ったわけでもない。以前の勤め先から退職後もずっと社販価格で分けてもらっているワインの内の1本である。大騒ぎできる立場にはない。私はその蜘蛛を乾燥させた後にティッシュに包み、さらにフィルムケースに入れて保管することにした。いつの日かフェブレイさんのところを訪問した際、その蜘蛛を持参し、蜘蛛の故郷の土に帰してあげようと思っていたのである。ところが、今回フェブレイさんとの再会が決定してからそのフィルムケースを探したのだがどうしても見つけ出せなかった。あわよくば蜘蛛の屍骸と引き換えに数ケースの高級ワインをせしめようという私が、大事な人質を捨てるわけがない。しかし今回の旅行には持ってくることができなかった。カーブの床の土をみて、次回までには絶対に探し出し、世紀を超えた里帰りを実現させてあげようという思いを強くした。
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巨大迷路、樹海のようなカーブから生還した私たちは再びオフィス棟に戻る。フェブレイさんは廊下で女性社員とすれ違った際に奥さんが帰宅したかどうか尋ねたようだが未だ所在がつかめないらしい。フェブレイさんは最後に廊下の一番端にあるラボラトリー(研究室)に案内してくれた。中には白衣をまとった小太りの、人のよさそうな女性研究員がひとり。コンピュータとにらめっこをしていた。ワイン製造会社にどうしてこのようなラボが必要なのかと思ったが、この研究所ではその年に各畑で収穫された葡萄の糖度や成分などもチェックしているそうである。フェブレイさんの説明が終わると彼女は早速、今日収穫されたばかりという葡萄を房から一粒とり、攪拌装置のようなマシンに入れた。するとモニターに様々な数値が打ち込まれていく。彼女は夫々を説明してくれているのだが、文科系の私たちには各成分の単語がわからないので理解不能である。フェブレイさんは例の鼻歌を口ずさみながら別のモニターを見つめていた。

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第78話 無数の高級ワインに驚愕 [ニュイサンジョルジュ]

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オフィス棟の廊下を抜けて通用口に向かう階段を下る。またしても灯りを点けたり消したりしながら。この階段を上り下りするのも3回目なので、ようやく事務所内の見取り図が頭の中で描けるようにはなった。階段をおりきって左に行けば通用口というところ。ここでフェブレイさんは右方向に進路を変える。私たちにとっては未踏未知の領域に入るのだ。小さなドアをあけて急な階段を下りる。冷たい空気を感じる。また次のドアをあけてフェブレイさんがスイッチを押す。するとその先には数え切れないほどの莫大な数のワインボトルが見えた。熟成を続けるワインたちである。
ここには木樽はないようでボトル詰めされたワインをさらに地下でさらに熟成させているようだ。ボトルがあるのは正面の通路だけではない。左右の通路両側の棚にも整然とボトルが山積み状態。中には鉄格子でガードされた棚の中に積まれたワインボトルもある。エチケット(ラベル)は貼られていないため黒っぽいボトルの上には埃が積もって白くなっている。その数何十万本、いや百万本に達するかもしれない。フェブレイさんの後に続いてひんやりとしたカーブ内を移動する。深い眠りについているワインをおこしてはいけない。足音も立てず、話す声もいつのまにか小声になっていることに気づいた。
私は歩をとめて左右に積まれたボトルの棚にぶら下がった札をした。1980年代のChambertin Clos de Beze, Mazis Chambertin, Latriciere Chambertin, Musigny, Echezeaux, Clos de Vougeot, Corton Clos des Corton Faiveley, Corton Charlemagne, Pommard等等、どれもここ何年も私の口に入ったことのない、日本のレストランで飲んだら福沢諭吉が何人か逃げていくほどの高級ワインばかりである。もちろん私が生まれる前からここに眠っているワインもかなりの数量あったはずだ。2,3本ズボンの中に隠し持っていきたい衝動にかられる。
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カーブの内部の床は土、天井や壁はレンガのようだ。さきほどの木樽がならんだ酒倉より天井は低い。大柄なフェブレイさんが心なしか猫背で歩いているように見える。そこに一定感覚で電灯がぶらさがっているだけ。この上にも建物があるはず。地震がきたら一生発見されることはないだろう。高級ワイン漬で死ねるのだから喜ぶべきかもしれない。ただしボトルの破片が刺さって痛そうだが。できれば地震にはさきほどの木樽の並んだ酒倉で遭遇したい。フェブレイさんはさらに奥へ奥へと進む。ここで灯りを消されたら、地震がこなくても私たちは二度と太陽の姿をみることはないに違いない。フェブレイさんはまるで樹海の案内人である。さきほどの木樽ばかりの酒倉といいこの酒倉といい、いったいどれだけの広さがあるのか。ふたつのカーブに眠るワインの日本における末端価格はいかほどか。尋ねたとしてもフェブレイさんすら把握していないに違いない。

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