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第130話 ベラールさんの運転 [パリ]

私が出張でヨーロッパを訪れていた12年前のこと、ロンドンのオランダパーク近くのイタリアンレストランで取引先のイギリス人と夕食をとっていたとき、以前から彼の態度、もしくは性格、それとも彼が英国人であるということを不快に思っていたのか、ベラールさんは、突如彼を荒々しい言葉でののしりだしたことを思い出した。彼が失礼なことをいったわけではない。どちらかというと和やかに食事をしていたのだが。そのときのベラールさんは今にも血管が切れるのではと思うくらい興奮していた。同席していたフランス人の部下になだめられてその場は収まったが、ベラールさんは英国嫌いであるという一面を知らされた場面だった。そのベラールさんがミニに乗っている。BMWに移ってからのミニではない。リアにはGBと大英帝国を示す大きなエムブレムが取り付けられた英国生まれ育ちの最終版ミニクーパー40周年記念モデルである。奥さんの車であるにしろ、よく英国車を購入することをOKしたものである。ベラールさんも70代半ばにして人間が丸くなってきたのだろうか。
ゴールドのミニクーパー、中はローズウッドがふんだんに使用されているまさに小さな高級車である。高級車といえば大型車、どうして日本ではこういう小さな高級車が生まれないのだろう。生産しても売れないのかもしれない。私は日本人の感性を呪った。外観は小さいミニだが、中は意外にも広い、となればたいしたものだが、中はやはりそれなりに狭い。後部座席にすわった奥さんは、帰国後、ミニは乗り心地も悪いし、何より息苦しかったと嘆いていた。
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ベラールさんはマニュアルシフトのミニを操り駐車スペースから車を出した。一方通行の駐車場内をかなりのスピードで走る。やがて地上へつながるらせん状の上り坂に入る。するとベラールさん、アクセルを踏み込み、タイヤをキーキー鳴らしながら地下7階から地上へ猛スピードで走るのだ。まるでフランス映画「タクシー」の一場面を見ているようであった。いくら対向車がこないことがわかっていても、ひとつハンドル操作を誤れば壁面に激突である。私のドア側アームレストを握る手も自然と汗ばむ。後部の奥さんは悲鳴をあげつつウインドウ上部に備えつけられたグリップを握りしめ地上への無事帰還を待っているようであった。

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