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第79話 蜘蛛の想い出とラボラトリー(研究室) [ニュイサンジョルジュ]

15,6年前のことだ。Faiveley社の”Nuits Saint Georges”というワインを我が家で開けたときのこと。意地汚く最後の一滴までとグラスに注いだところ、葡萄の種皮やおりにしては大きい物体がでてきた。グラスを傾けおそるおそる見てみるとそれは何と蜘蛛だったのである。フェブレイさんのところのワインでなければ、すぐに買い求めた店舗に電話してクレームである。蜘蛛を口に含んでしまった。お腹が痛い、吐き気がする。湿疹がでた。それは大騒ぎして、1年はただでワインが飲めたかもしれない。しかし、フェブレイさんで作ったワイン。ましてお店で買ったわけでもない。以前の勤め先から退職後もずっと社販価格で分けてもらっているワインの内の1本である。大騒ぎできる立場にはない。私はその蜘蛛を乾燥させた後にティッシュに包み、さらにフィルムケースに入れて保管することにした。いつの日かフェブレイさんのところを訪問した際、その蜘蛛を持参し、蜘蛛の故郷の土に帰してあげようと思っていたのである。ところが、今回フェブレイさんとの再会が決定してからそのフィルムケースを探したのだがどうしても見つけ出せなかった。あわよくば蜘蛛の屍骸と引き換えに数ケースの高級ワインをせしめようという私が、大事な人質を捨てるわけがない。しかし今回の旅行には持ってくることができなかった。カーブの床の土をみて、次回までには絶対に探し出し、世紀を超えた里帰りを実現させてあげようという思いを強くした。
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巨大迷路、樹海のようなカーブから生還した私たちは再びオフィス棟に戻る。フェブレイさんは廊下で女性社員とすれ違った際に奥さんが帰宅したかどうか尋ねたようだが未だ所在がつかめないらしい。フェブレイさんは最後に廊下の一番端にあるラボラトリー(研究室)に案内してくれた。中には白衣をまとった小太りの、人のよさそうな女性研究員がひとり。コンピュータとにらめっこをしていた。ワイン製造会社にどうしてこのようなラボが必要なのかと思ったが、この研究所ではその年に各畑で収穫された葡萄の糖度や成分などもチェックしているそうである。フェブレイさんの説明が終わると彼女は早速、今日収穫されたばかりという葡萄を房から一粒とり、攪拌装置のようなマシンに入れた。するとモニターに様々な数値が打ち込まれていく。彼女は夫々を説明してくれているのだが、文科系の私たちには各成分の単語がわからないので理解不能である。フェブレイさんは例の鼻歌を口ずさみながら別のモニターを見つめていた。

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