第102話 露店荒し [オンフルール]
店の大半は外にはすでに何席かが置かれていたが、テーブルクロスやキャンドルスタンドなどはまだセットされていない。しかし店の内部には真っ白なテーブルクロスがかけられたテーブルが見える。それなりのグレードの店なのだろうと思った。私たちがメニューを見ていると外の席のセッティングをはじめるのだろうか店から中年のギャルソンがおでましになった。奥さんが「お店は何時から?」とフランス語でたずねると、そのギャルソン「7時半」と無愛想に答えた。「ここはお前らの住んでいる極東の小国の食堂とは違うんだ。ディナーは8時ごろからゆっくりと楽しむんだよ。お前らみたいのが店にいると他の客が入りづらい。他のもっと安い店で食べな」とでもいいたいような応対であった。私たちはギャルソンの無礼な態度に呆れ、ここでは死んでも食べてやらないと誓った。今夜お前のその態度で数百ユーロ儲けそこなったなと呪いつつメニューの前から消えたのである。
メリーゴーラウンドのそばには獲りたてで新鮮な小エビを焼いて販売する屋台があった。赤ら顔のいかにも漁師の奥さんという感じのおばさんの人なつこい笑顔につられ私たちはオードブル代わりにそれを買い求めその場で食べた。獲りたて焼きたては美味いに決まっているが、湾外から流れ込む潮の香りが小エビの美味しさを倍増させる。トレボンを連発しているとおばさんが、背後からボトルとりだし、そばにあったコップにつぎだした。ワインにしては色が変だとおもっていたら、地元ノルマンディー名物カルヴァドス(葡萄ではなく林檎を原料とするブランデー)だという。お金はとらないから飲みなさいというのだ。私たちは拒む理由もないのでありがたくいただいた。
時計を見ると6時半近く。オンフルールもようやく夕暮れという雰囲気になりつつあった。私たちは魚介類のパテやテリーヌの缶詰だけを販売する小さな店で、かさばりはしないが結構重量のあるお土産を数点購入。ホテルに一旦もどり、ディナーに向けて体調を整えることにした。
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