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第122話 高級時計店ブレゲにて [パリ]

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パリでは私の勤務先の社長から重要な業務の遂行を命じられていた。高級時計店ブレゲへの潜入調査である。社長が激務の最中に見つけた日本のインターネット激安ショップにおけるブレゲの価格と、現地価格との間にどの程度の差があるかを調べなければならないのだ。
ブレゲのショップは超高級ブランドショップしか見当たらないバンドーム広場に面している。外には体格の良い黒服のガードマン兼ドアマンが立ち観光客が気安く入れる雰囲気ではまったくない。最初からブレゲだけが目当ての顧客、もしくは少なくとも他ブランドと比較して購入を検討している人だけが重い扉を開いて入店を許される状況といえる。私たち夫婦だけならショーウインドウを除くことしかできなかったであろうが、今日は睦美嬢が一緒なので入店可能だ。なぜなら彼女の左手首には数年前に購入した馬具屋ヘルメスの腕時計が燦然と輝いているのだから。その価格は現在の彼女のパリでの1年間の生活費に匹敵するという。バブリーだった外資系証券会社勤務時代、後輩のお供でハワイのショップに立ち寄った際、衝動買いした代物だそうだ。彼女いわく「今なら絶対手をだせない」という逸品である。これさえ身につけていれば、冷やかしで入店してきた日本人観光客とは思われないであろうというのが彼女の推測だった。
彼女は不自然に左手首を露呈し、エルメスの印籠を見せつけつつ「早くドアを開けなさい」とドアマンを威嚇した。小さな彼女がバンドーム広場の一角でマグマ大使のように大きく見えた。ドアマンはニコリともせずドアを開けた。彼女に続いて私たちも店内に入る。奥行きはありそうだがとにかく中は薄暗い、店内の左手に小さなショーウインドウが奥までいくつかあるが、商品を照らしだすそのショーウインドウ内の照明だけでショップ内の明るさを確保しているようにも思えた。私たちが入店するとすぐさま若いパリジェンヌらしき売り子さん(この表現はマッチしないかもしれないが)がマネージャーらしき男性とともに私たちのもとにやってきた。私たちの背後にはなぜかさきほどのドアマンが立っている。彼らも私たちとともに入店してきたのだ。東洋からきた不審者たちを監視しているのかもしれない。売り子さんは最初英語で話しかけてきたが、睦美が英語で応えることなく流暢なフランス語で対応したので、その後の交渉はフランス語で進んだ。

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