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第140話 チェックアウト [パリ]

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パリ最後の朝を迎えた。7時前なので窓からみえる広場の明かりも灯っている。その周囲の道を大きな騒音を立てて清掃車が動き回っていた。明け方のうちに掃除をするからパリの朝、道路にゴミが舞っていることがないのだろう。
地下のレストランで朝食を済ませ部屋に戻る。レースのカーテンを開けて空をみあげると、8時を過ぎていたがまだ夜は明けきってはいない。でも今日も天気はよさそうである。下を覗き込むと広場は学生たちの知性が火花を散らしているようですでに活気に満ちていた。隣のカフェのテラスにはエスプレッソを飲みながらノートに何かを書き込んでいる学生がいる。ホテル前のベンチに座って煙草を吸いながら教科書だろうか本を広げている女子大生もいる。雀荘で一夜を過ごし、講義中深い眠りにつくために大学へきているような不良学生は少なくとも私の見渡せる範囲には見受けられない。大学の通用口に目を向けると警備員に身分証明書を見せて学生がぞくぞくと構内に吸い込まれていく。ソルボンヌ大学の学生たちのこうした朝の光景を見るのも今日が最後だと思うと、なかなか窓から離れられなかった。
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荷造りはほとんど昨夜のうちに済ませておいたので、パジャマや洗面道具など、今朝までつかっていたものをスーツケースの残り少ないスペースに詰め込むだけである。最後に部屋やバスルームをみて忘れ物のチェック。クローゼットから土産物の杖をとりだし重いスーツケース二つを転がしてドアに向かう。振り向くとテーブルの上に置かれたベラールさん夫妻が贈ってくれた綺麗な花たちが「ボンボヤージュ、お気をつけて」と私たちを見送ってくれているようだった。
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このホテルの難点はエレベーターが1基しかなく、さらに3,4人乗るといっぱいになるほど小さいことだった。チェックアウトする人が集中するから朝方のエレベーターは当然混雑する。手ぶらなら4階から螺旋階段で降りてもどうということはないが、大きなスーツケースを持って2往復するほど私も若くはない。何度も宿泊客と彼らのスーツケースでいっぱいで、ひとりとして追加で乗るスペースがないエレベーターを見送り、誰も乗っていないエレベーターの到着をじっと待つしかなかった。

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第139話 ベラール夫妻とのお別れ [パリ]

劇場からホテルまで駐車場所までもどる途中、セーヌの対岸にそびえる青光りするエッフェル塔をバックに記念写真。まっすぐにホテルに向かってお別れかと思ったら、ベラールさん遠回りして夜のモンパルナス周辺を案内してくれた。道路沿いにはレストランの色とりどりのイルミネーションが光る。暗くて背景が見えないだけにパリというよりロサンゼルス郊外を走っているようでもあった。
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車はソルボンヌ広場に到着、いよいよご夫妻とお別れである。一旦車から降りて私たちとの別れを惜しむ二人に、私たちは滞在中のおもてなしに対し深く深く感謝していることを、ありったけの単語を並べて伝えた。お別れのセレモニーを終えるとロレッタさんはミニクーパーの後席ではなく助手席に乗り込む。「オルボワール」 また会えるかもしれないし、永遠の別れになってしまうかもしれない。私たちはミニクーパーのテールランプが見えなくなるまで手を振り続けた。
手を振り続けたからではないが、小腹が空いた気がする。そう思ったのは私だけではなさそうだ。エスカルゴを食べたホテル横のカフェはまだ営業していたので腹を満たすことにする。パリ最後の晩餐はコンサート前に済ませてはいるがフルコースではなく軽食だ、あれから時も経った。空腹も無理はない、これが本当の最後の晩餐になると自分に言いきかせた。選ばれた食べ物はピッツア、パリの最後をピッツアで締める、何ともお洒落である。この2週間余りのいろいろな出来事を思い出しながら、周囲から聴こえるフランス語を肴にピッツアと黒ビールを腹に納めた。
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明日の午前中は睦美の住まいに行き、彼女とパリ最後のランチをとり、午後にはホテルにもどった後、シャルルドゴール空港へ向かうことになっている。あと72時間後には間違いなく私は日本のオフィスにいて、たまった2週間のお仕事をひとりもくもくと片付けているのだ。とにかく明日がある、残された時間を楽しもう、そういいきかせつつ、私たちは荷造りをすべくホテルに戻った。

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第138話 初めてのクラシックコンサート [パリ]

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日本でもかつてロンドンで生活していた時にもロックコンサートには何度も足を運んだことはあるがクラシック、フルオーケストラの演奏を劇場で聴くことは私にとって初めての経験だと思う。当初はオペラ鑑賞を薦めたベラールさんだったが私たちの滞在中にパリ市内でオペラの上演はなく、この劇場でのコンサートだけが私たちがクラシックに触れる唯一のチャンスだったそうである。
正面入口から劇場に入るとロビーフロアの中央に緩やかなスロープの階段があり、その階段は途中で左右に分かれていた。ロビーはすでに着飾った紳士淑女で溢れている。もちろんイブニングドレスやタキシードといった人がいるわけではない。それに近い人もいたが、大抵はジャケットを羽織った紳士、ドレス姿のご婦人方である。ジーパン姿の若者は当然見つけられない。当然ベラールさんはチケットを4枚入手してくれていたが、並びの席ではなかった。私たちが日本を出発間際に手配をお願いしたので、チケットの残数も少なかったのだろう。二枚は1階、それもステージの最前列の真正面。残りの2枚は二階席だという。ベラールさんと私は二階席、ご婦人方はコンサートホールの迫力を味わってもらおうとステージ前で鑑賞することになった。歴史ある劇場だけに内部は映画で観たことのあるようないかにも重厚なクラシックをおきかせしまっせという雰囲気が漂っている。この会場に小林幸子や美川憲一が派手な衣装で登場したらおかしなことになることだけは間違いない。
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その夜の指揮者はフランスでも若手有望株といわれる人物。彼の指揮にあわせステージ上のバイオリン奏者が激しく弓を動かす様子は、海岸に打ち寄せる荒波を見るようで衝撃的だった。休憩時間にロビーにおりる。ベラールさんは知人を見つけたらしく、挨拶を交わした後に私を紹介してくれた。「何だお前、日本人なんかとつきあってんのか」とは言っていなかったと思いたい。少し遅れてロレッタさんと奥さんがロビーに現れる。指揮者を目の前に演奏をきいた奥さんは指揮台の上で踏み鳴らす彼の足音まで聞こえ迫力があったと興奮気味だった。
しばしの休息の後、それぞれの席に戻って後半の演奏を堪能した。日中の疲れだろう。大音響の中、途中ベラールさんが居眠りをしているのを私は目撃してしまった。私も睡魔に襲われたから当然といえば当然。しかしステージ下で見る奥さんは居眠りすることすら許される状況ではなかっただろう。

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第137話 無謀な縦列駐車 [パリ]

開演まで1時間あまりしか時間がないので軽いディナーということでベラールさんはこの店に決めたようである。私も奥さんもベラールさんの薦める舌平目のムニエルをオーダーした。ワインはベラールさんがセレクトしたミュスカデ。食事中、映画「モンテーニュ通りのカフェ」に登場したような若い女性ではなく、神経質そうな細身のおっさんギャルソンが私の水の入ったグラスに誤ってワインを注いでしまった。日本人なら「いいですよ」といって新しいグラスを用意してもらってワインを注いでもらうだろう。しかしさすがベラールさん、おっさんギャルソンのミスを許すことなく、ドスの利いたフランス語の低い声で叱責した。リヨンでの私がそうであったようにあのようなミスをした場合でも、日本人客はチップを当たり前のように払ってしまうのだろうが、ベラールさんは店側にミスがあった場合にはチップは不要といっていた。当然といえば当然。チップとは彼らの顧客へのサービスに対する評価なのだから。
私たちが食事と会話に集中していると後ろの席の客がざわつきだした。外を指さして何かいっているのだ。彼らの席も道路に面しているので外の様子もよくわかる。私たちも道路を見ると、店の前の歩道に沿って停められた2台の車の間に、おばさんが駐車しようとしているのだ。どう考えてもおばさんの車が入るスペースはない。ところがそのおばさん、前後の車に何度も自らの車をぶつけ、ちょっとずつスペースを広げて停めようという魂胆のようだ。バンパーはぶつけるものという教育が行き届いているのだろうか。車がぶつかる度に後ろの席の客が非難の声をあげる。そのうちベラール夫妻も小声ながら参加していた。あまりに常識外れの行為なのだろう。
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ところが時間はかかったがそのおばさん自らの努力で確保した空間に見事車を納めたのである。得意気に車から降りてきたおばさんに、ベラールさんがレストランの窓ガラスをこぶしで叩いて非難する。おばさんそれに気づいたがベラールさんにニッコリ微笑んで歩いてどこかにいってしまった。さすが前のコンサートにきた客ではなかったようだが。

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第136話 クラシックコンサート前に腹ごしらえ [パリ]

私たちは6時前にはホテル前の通りに立ち、ベラール夫妻の車が到着するのを待った。日は暮れかかっているのだがソルボンヌ広場はまだ学生たちで賑わっている。4人乗車するのだから、今回は今朝駐車場でみたミニクーパーの隣にあったベラールさん専用ワーゲン・パサートで登場かと思っていたら、パンテオン方面からやってきたのはさっきまで乗っていたゴールドのミニクーパー。助手席に座っていたロレッタさんがシートを倒して後部座席に移動。続いて私の奥さんも狭い後部座席に入り込む。4人乗るとさすがにシャコタンの車に乗ったような気がするが錯覚だろうか。
車はオルセー美術館を左手にみつつセーヌ川沿いに西へ進んだ。途中、橋を渡って対岸に。そしてホテルをでて15分ほどで、劇場近くに到着した。問題はまたしても駐車スペースの確保である。人の通りもないセーヌ川沿いとはいえ、シャンゼリゼ通りもそう遠くはないので道路の端は車でぎっしりと埋まっていた。それでも少し探しただけで空きスペースを発見。ミニなら十分停められる。パリ市内にでかけるにはミニが最適というベラールさんの言葉が思い出された。パサートを停めるとなったらまだまだ時間が必要だったに違いない。
車を停めてからセーヌ河畔をしばらく歩く。左手にはセーヌ川、その向こうには私の苦手な青いエッフェル塔がそびえている。やはりシックなブラウンの鉄骨が浮かび上がる従来のライティングの方がクラシカルで好きだ。EU誕生何周年記念かは知らないが、法隆寺の五重の塔を真っ赤なライトで照らすようで興ざめだ。鋭角に右折するとそこがシャンゼリゼ劇場のあるモンテーニュ通りだ。この辺りは超高級ブティックが並ぶパリ市内でも屈指の豪奢なところ。ロレッタさんはいつもこの辺りで服を買っているとベラールさんが言って笑う。私が言えばジョークであることは明白だが、ベラールさんが言い放つとあながちジョークとも思えない。
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ベラールさんはシャンゼリゼ劇場の前のカフェ「バー・デ・テアトロ」を予約してくれていた。このレストランはフランス映画「モンテーニュ通りのカフェ」で主人公の女性がギャルソンとして働いていた店である(私たちは帰国後、パリが舞台ということでこの映画を観にいったのだが、スクリーンに映し出された「バー・デ・テアトロ」にお互い思わず「あそこだ」と声をあげてしまった)。私たちは赤いキャノピーの真下、前面ガラスで覆われた窓側のテーブルに案内された。店内にはそれほど大きくないにテーブルがぎっしりとならんでいるが全て埋まっている。大半がコンサート前に軽食をとるために入店してきた客なのだろう。

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第135話 時を経ても変わらない丘からの眺め [パリ]

DSC01519.JPGベラールさんはサクレクール寺院に向かう前に私たちを近くの葡萄畑に案内してくれるという。ル・クロ・モンマルトルというワインを年間1000本製造しているだけの小さな畑だが、味は確かなようでこれまでに賞を獲ったこともあるとか。パリ18区によって運営されるいわば公共の畑から収穫された葡萄で作られたワインの収益はすべて近くの社会福祉施設に寄付されるという。日本とフランスの文化の違いをあらためて知らされた。私たちもパリで社会貢献したかったが、年間1000本しか製造されないのではもちろん私たちが入手できるはずもない。
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辿り着いたモンマルトルの丘の頂点に建つサクレクール寺院前からの眺望は期待通りに素晴らしかった。ロンドンのプリムローズヒルから見るロンドンの風景は高層ビルの出現によって様変わりしていたが、何十年か前にみた景色とほとんどというかまったく変わっていないところがパリの魅力かもしれない。サクレクール寺院で手を合わせ、世界平和を祈願した後、似顔絵を描く画家の卵、画家崩れ、単なる絵の上手な商売人たちや、歩行者からのおひねり目当てに芸を披露する大道芸人を冷やかしながら車に戻った。モンマルトルからそのままホテルに戻るのかと思っていたら、ベラールさんは少しばかり遠回りしてコンコルド広場、エリゼ宮、日本大使館前を経由してくれた。さすがにここには昨日もおとといもきたよとはいえず、助手席で初めて見るかのように私はキョロキョロしていたのである。エリゼ宮を警護する警官に向かって何か投げつてもいいかとベラールさんに言うと、さすがに「ノン」という答えが返ってきた。
4時前にホテルに到着。私たちはコンサート鑑賞用衣装に着替えるため一旦別れた。朝から半日、混雑するパリ市内を運転し、ベラールさんもかなり疲れているに違いない。それでも再び6時には迎えにきてくれるという。ベラール夫妻にとってもタクシーで劇場まで行った方が楽だとは思うのだが。ホスト、ホステスとして私たちを徹底的にもてなしてくれる姿には本当に感謝、感激である。

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第134話 モンマルトルの丘 車停められません! [パリ]

ポンピドーセンター内で昼食を終えて外に出るとベラールさんが私たちから少し離れたところで電話をかけはじめた。館内でも時折携帯のチェックをしていたから外に出て初めて連絡をとったのだろう。フランス語で話しているのでもちろん内容はわからないが、友人との他愛もない会話ではなさそうである。かなりシリアスな表情をしている。ビジネス上のトラブルかもしれない。忙しい最中、丸一日時間をとらせてしまったことを申し訳なく思った。電話を切ると次はどこに行きたいかと尋ねてきた。さすがにパリから少しばかり離れた「ヴェルサイユ宮殿」とはいえない。半日仕事になってしまうだろうから。結局眺めの良いモンマルトルの丘に向かうこととなった。天気も良いのでパリの街が綺麗に望めるに違いない。
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夜は歓楽街となるピカール界隈を抜け車はモンマルトルの丘を登り始めた。この辺りは特に道幅が狭い。しかし両側にはぎっしりと車が停まっている。駐車している車の脇を歩く太陽の下では違和感のあるけばけばしい女性を見つけては「まだ仕事の時間ではないのに」とベラールさんがいう。丘を登りつめたものの問題は駐車できるかである。運良くサクレクール寺院などの見物を終えて駐車スペースを離れる車に出くわせばいいがそうはうまくいかない。ありとあらゆる路地に入り込み隙間を見つけようとするが見つからない。ベラールさんの顔にも疲れがみえる。「夜のコンサートもあるし、一旦ホテルに戻りましょう」というがベラールさんはあきらめない。もう二度とパリの土を踏めないかもしれない日本から珍客をなんとしてもパリを一望できるモンマルトルに連れて行こうというのだろうか。
20分ぐらいは丘の周辺を彷徨っただろうか。ようやくミニが収まる駐車スペースが見つかった。駐車した場所から少し先にある券売機でパーキングチケットを購入。車のダッシュボード上に放り込む。これで1時間は堂々と車を停められるのだ。私たち3人はゆっくりとサクレクール寺院に向かって歩き出した。石畳の道は当然くるまの乗り心地も悪いが歩くのもまた厄介である。しかし靴底を通しての石の感触とともに先人たちの会話が聞こえてくるようで、アスファルトやコンクリートの舗道上を歩くよりは一歩に重みを感じた。

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第133話 現代アートは理解できない [パリ]

ベラールさんのドライビングにも慣れてきた頃、最初の目的地ピカソ美術館に到着した。しかし様子がおかしい、人影が見えないのだ。いくら日本の混雑度とは異なるとパリの美術館といっても変だ、だいたい門扉が閉まっている。ベラールさんが車を降りて確認に行くとなんと当面休館、日本でのピカソ展開催のためピカソ作品の大半が日本へ輸送されているためだった。
ピカソ美術館での鑑賞時間がカットされたので、そのままポンピドーセンターに向かうのかと思ったがベラールさん急遽近くにある別の場所に行くという。そこは周囲を赤レンガの建物に囲まれたパリ最古の広場といわれるヴォージュ広場だった。確かに美しい、広場の中央付近に立つと周囲はすべて統一された高さの同じ建物。ヴィクトル・ユゴーもこの一角に住んでいたこともあるそうでその場所は市立美術館として使用されているそうだ。この広場で柔らかな日差しを浴びて、年がら年中ボーっとしていたい。私はそんな生活をしていて決して抜け殻にならない自信はあるが。まず住めないだろう、この界隈はパリでも高級邸宅地らしいから。ベラールさんはその美術館の入口においてあるパリ案内のパンフレットを物色、情報収集した後に次の目的地ポンピドーセンターに向かった。
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ポンピドーセンターの斬新というか奇をてらった外観が私は好きではない。オープン当初は現地でも批判されたそうだが、時が解決してくれているのだろう。今もって改装とか取り壊されていないのだから。もっともエッフェル塔だって完成時は非難轟轟だったそうだから。
現代アートを紹介するポンピドーの展示作品には、首を傾げたくなる理解不能な作品が多かった。若いころ訪れたダリ美術館の作品ほど異彩な感じはしなかったが、ここでなく駅前にモニュメントとしておかれていたら誰も見向きもしないかもという作品もあったし、これを大人が本気で造ったのという作品も少なからず見うけられる。私の芸術に対する意識がきっと稚拙なのだろうが。芸術には好みがあって当然、私の家にはポンピドーが収蔵しているアートを置くことはないだろうということだ。
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第132話 怒鳴りあいには聴こえないフランス語 [パリ]

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ベラールさんのミニはオープントップになっているので座席から空が見える。私は時折そこからカメラを突き出し、パリの街並みをカメラに収めていた。
マレ地区に向かう途中の大通りを離れた一方通行の路地でのこと。ベラールさんが歴史的に価値のある建物だとか説明しながら、結構ゆっくりと車を走らせていた。私が写真を撮ろうとすると、さらに停まりそうなスピードに落としてくれる。私はサイドミラーでミニの背後にゴミ収集車がずっとついていることに気がついていた。ベラールさんがその存在に気づいていたかどうかは不明だ。ちょっと道が広くなったときである。ゴミ収集車がスピードをあげミニの左側から抜きにかかった。そしてミニの横につくとミニを見下ろす収集車の助手席から若い男がベラールさんにむかって拳を振り上げながら怒鳴った。「○×△、○×△、○×△、○×△、ムッシュー!」と。「○×△、○×△、○×△、○×△」ベラールさんも少しばかり声を荒げてジェスチャー入りで反論しているようだった。
私が想像するには男が「何ちんたら走ってんだよ、このうすらぼけ」といったに違いない。そしてベラールさんは「美しいこのパリの街を、日本からきたお客さんにみせとるんだす、そんなに急いではるんならTGVにでも乗って移動されたらいかかでっか、このおたこなすさん」と言ったのだろう。しかし、男のムッシューという一言で、日本の道路や交差点などでドライバー同士が罵り合っている光景とは別の世界を感じさせるのは不思議だ。罵り合いもお洒落、クールである。フランス語のサウンドがそうさせるのか、汚い言葉もパリの街が美しく包み込んでしまうのだろうか。ベラールさんは若者に怒号を浴びせられたことも意に介さず、その後も平然と路地をゆっくり、あるときはアクセルを踏み込んでマレ地区に向かった。
私は、前方の路上に秋の日差しをうけてまどろむ白い猫を発見した。しかしベラールさんは左右の建物の紹介をしていてあまり前方に注意をはらっていない様子。「あっ」と声を出す前にミニは猫を通過した。「ギャッ」という泣き声がきこえたようにも思えたのだが。車を降りてから奥さんに「さっき猫轢かなかった?」とたずねると、「危なかったけど左に逃げたよ。振り返ったら歩道を歩いてたから」。それをきいて安心した。パリの猫は俊敏である。

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第131話 強くなければ生きていけないパリ交通事情 [パリ]

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地上に出てもベラールさんのドライビングは70歳代半ばとは思えない荒っぽさである。少しでも隙間があれば横の車線に割り込む、これは無理でしょと思うようなところでも車を滑り込ませるのだ。そして例え割り込みがあきらかであっても後続の車に「ごめんね」「入れてくれてありがとう」的な会釈合図などすることは皆無である。
片側2車線の道路を走行中のことだ。右側の走行車線に路線バスが走っていた。ベラールさんはその先の交差点を右折しなければならないことに気づいた様子。バスも結構なスピードで走っている。普通の人ならバスを先に生かせて、その後続の車に会釈をしてバスと後続車の間に割り込ませてもらうはずだ。ひとまず右車線に移ってから、その先の信号を右に曲がるであろう。ところがどっこいパリジャンは違う。ベラールさん何を思ったか突然アクセルを踏み込んだのだ。ウインカーは右折を知らせている。そしてバスとその前を走る車の間に強引に、いや無謀といった方が適切かもしれないが、とにかく車をすべりこませるというか直角に入り込みそのまま交差点を右折したのである。つまり2車線の左側、センターラインよりの走行車線から、右側の車線を同方向に走行するバスを無視して大回りして右折したのだ。まるでアクション映画、香港映画のジャッキーチェンだ。
当然バスの運転手さんがブレーキをかけなければバスはミニの側部に激突していたに違いない。まかり間違えば大惨事。“日本人夫婦パリで事故死”のニュースが日本のメディアを賑わせたに違いない。しかしバスの運転手から急ブレーキを余儀なくされたベラールさんの横暴な割り込みに対する怒りのクラクションがきこえてこない。突如左側車線から現れた車が前を横切っていたことなど無視しバスは平然と直進していったのだ。ひょっとするとブレーキすら踏んでいなかったのかもしれない。パリでは当たり前の光景なのだろうか。パリの道路では弱肉強食、遠慮していたらいつまでたっても目的地にはつかないのかもしれない。高速道路ではマナーのよろしいフランス人も街中では別の顔を持つということか。いつもは穏やかなベラールさんですらそうなのだから。

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