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第14話 レミゼラブル(ああ無情)前編 [ロンドン]

ピカデリーサーカスの東側、ウエストエンドといわれるエリアにはブロードウエイのように大小たくさんの劇場がありミュージカルを楽しむことができる。私たちはロンドン初日の夜、本場のミュージカルを観ることにした。当日券の残りを販売しているチケットセンターに入り今夜観賞できる出し物を尋ねた。みどりの窓口より狭い店内は、前売り券を買わずに少しでも安くチケットを手に入れようとする輩、まるでスーパーの閉店間際に入店するケチ、よく言えば倹約家たちで賑わっていた。まあ私たちもワンノブゼムといえないこともないのだが。マンマミーアを観たかったがあいにく売り切れ。レミゼラブルなら席があるというので料金を尋ねると二人で100ポンド(約2万円)との答えが。奥さんにどうするか確認すると「それにしよう」という。100ポンドが日本でいくらなのかわかっているのだろうか。寝不足で感覚が麻痺しているのかもしれない。しかし、せっかく観ることができるチャンスなのだからと思い席を確認した後、購入した。劇場はチケットセンターのすぐとなりにあった。開演まで時間がないため私たちはロンドン初日の夕食は、ミュージカル鑑賞後、日本時間なら翌日の朝食時間帯にずれこむことになったのである。
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劇場内はそれほど大きくはないが、最新設備を備えた日本の劇場とは異なり、歴史を感じさせるそれなりの雰囲気を漂っている。私たちが着席した頃、まだ席の半分以上は空席だった。やがて前の列に陽気なスペイン人の観光客と思われる団体さんが着席した。なぜだかわからないが皆さん興奮気味でテンションも高く声が大きい。背後には英国人カップルが着席した。顔は見ていないが発音や話の内容からして現地人と判断しただけである。私たちの席は通路側から二番目と三番目。奥さんが通路側に近い席に座った。つまり通路側が一席空いていることになる。開演が近づくにつれて空席は徐々に少なくなっていく。皆、劇場内のパブで一杯飲んだり、周辺のレストランで食事を済ませたりしてから席に着くのだろう。いつのまにか奥さんの隣の席には二十代前後のレディーが座っていた。彼女が奥さんに何かを尋ねてきたのだが、わからないので彼女の話をきいてくれという。彼女は終演時間を知りたがっていたのだ。良く聞き取れないがロンドン南部からきたらしく時間によってはバスがなくなってしまうというのである。私はプログラムももっていないのでわからないが、2時間公演したとしてだいたい10時頃には終わるのではないかといい加減に答えた。彼女はGパンにTシャツというような軽装ではもちろんない。ミュージカル鑑賞に相応しいそれなりのドレスを身にまとっていたが発音にエリザベス女王のような気品がない。ロンドン南部の下町のお嬢といったところだろうか。その彼女、私の回答を疑問視したのか、後ろの席にいた英国人カップルに同じ質問をしていた。彼の答えも同じだった。後で奥さんにきいたのだが、彼女、あなたのご主人はフランス人かともたずねてきたそうである。私のルーツはベルギーの貴婦人だそうだから、彼女には私の背後にある何かが見えたのかもしれない。

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第13話 ソーホー地区の建物の外に群れをなす集団 [ロンドン]

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リージェントストリートを歩いていると交差する細いストリートの向こうに、ものすごい数の人だかりを発見した。何か事件、それを見物する野次馬か、それとも今宵のミュージカルを観る人たちがすでに劇場の外で列を作っているのかと思った。私たちは確認すべく脇道に入った。その群集に近づいて初めてその人たちが何をしているのかがわかった。彼らが立っているのはパブの外。つまり店内では煙草をすえないので、彼らはラガーの注がれたジョッキを片手に店頭で一服していたのである。それにしてもものすごい人数である。それが、一箇所ではなく、パブというパブの店頭がすべてそういう状態なのだ。当然半分以上の人は車道に溢れでており車が通るたびにけたたましいクラクションを鳴らされている。こんな光景も20世紀には見ることはなかった。
ピカデリーサーカスを基点に、トラファルガースクウェア方面、オックスフォードストリート沿い、シャフツベリーアベニュー、グロセスタースクウェア、ソーホー界隈は、33年前のロンドン滞在時にほとんど毎日のように散策していたので地理は頭に叩き込まれているはず。ものめずらしさではなく、懐かしさからきょろきょろしながら、ロンドンらしからぬあまり上品とはいえない鮮やかなネオンが灯りだした通りをグロセスタースクウェアの劇場街に向けて歩いていると東洋人ではない明らかに西洋人と思われる女性に声をかけられた。チャイナタウンはどこかというのだ。ディナーに招かれているとのことでかなりあわてている。私は三十年前の記憶を呼び戻し、自信ありげにチャイナタウン方面を指差した。彼女はお礼を述べた後、私の前からチャイナタウン方面の雑踏の中に消えていった。しかし彼女は私をロンドン住人と思ってたずねてきたのか、それとも中国から来たツアー客なら中華街がどこにあるかは百も承知だろうと思って尋ねてきたのか。確かめようもないが多分後者だろう。
ところがどっこいこのチャイナタウン案内話には落ちがある。それから何時間後か、ホテルへ帰る途中でチャイナタウンに紛れ込んでしまったのだが、その場所は、さきほど女性に尋ねられたときに自信ありげに指示した方向とは真逆だったのである。チャイニーズレストランを探して危険なソーホーエリアを彷徨っているあの女性に遭遇しないよう私たちはうつむき加減にホテルへ急いだことはいうまでもない。

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