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第32話 再会そして永遠の別れ [ロンドン]

上空は見事な青空、テムズ川から吹く風は冷たくもなく心地よい。日曜日とあって橋の上は渋滞もしていない。その分、片側2車線の道路を走る二階建ての路線バスや観光バス、タクシー、自家用車もかなりの速度で私たちの前を通過していく。このように車の往来が結構ある道路を、80半ばのおじいさんが自転車で走行して大丈夫なのだろうか。いくらスピードを競うレースではないといっても少しばかり心配になった。9時10分を少しばかり過ぎたがまだサトウさんは現れない。それよりさきほどからレースをしているような自転車が私たちの前を全く通過していないことに気がついた。私の聞き間違いか。この橋ではなかったのか。不安に感じ始めたとき、橋の中央付近にこちらに向かってくる一台の自転車が見えた。私は普段メガネしていないので視力は非常に悪いし、奥さんもそれほど良くない。二人ともそれがサトウさんであるという確証がつかめない。しかしヘルメットも被っていないのでただの通行人、サトウさんではあるまいと判断した。ところがである、その自転車が私たちの数メートル手前に来たとき、相手が我々に向けて感嘆の声をあげたのである。サトウさんの方が私たちを先に確認したのだった。サトウさんだとわかっていれば橋の中央付近からカメラの動画に記録していたのに。もう一度戻ってこいできてくださいとはいえない。ノーヘルで危なくないかと尋ねると、ヘルメットは嫌いだという単純な答えが。それにしてもサトウさんの服装はグレーのズボンに青いセーターで昨日とまったく同じ。レース参加者とは誰も思わないだろう。
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サトウさんは私たちが待っていてくれたことを本当に喜んでくれた。あとふたつみっつ橋を渡るとゴールだそうで、そこに奥さんが車で迎えにきてくれているとのこと。自転車を折りたたんで車に積むため帰路は車だそうである。サトウさんはタイムを競っているであろうレース中の身、あまりひきとめてもいけないので、「気をつけて」と声をかけて私たちは別れた。サトウさんは緩い下り坂になったウエストミンスター橋を渡りきりビッグベンの先を左手に折れて私たちの視界から消えていったのである。
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今度サトウご夫妻に会える日はいつになるのだろうか。25年は待ってはくれまい。2,3年のうちにまたロンドンに帰ってこなければいけない。私は誓ったがその望みはかなえられなかった。ポール・サトウ氏はその何年後、天に召されたしまったのです。

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第31話 ビッグベン下で自転車レースに参加するサトウさんと再会 [ロンドン]

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翌朝テレビではシンガポールで開催されている初の夜間F1レースの予選の模様を映し出していた。私たちは甲高いF1カーの走行音にせきたてられるように素早く着替え、朝食をとるため営業開始早々の階下にあるレストランに入った。前夜は昼にサトウ家でがっつり栄養をとったので夜はフォートナムメイソンのサンドイッチと軽め。だから自分の好きなだけ皿にもれる朝のバッフェはありがたかった。朝食後奥さんに一服する間も与えずすぐにホテルをでて地下鉄ボンドストリート駅に向かう。この日はサトウ家のご主人ポールさんが高齢者の自転車レースに出場するときいていた。彼がビッグベン横のウエストミンスター橋を自転車で通過するのは9時10分ごろとのこと。だから急ぐ必要があったのだ。
昨日の朝購入した今日の分のフリーパス券を改札口ゲートで挿入し、長いエスカレーターを乗り継いでジュビリーラインのホームに出る。このジュビリーラインは30年前には存在しなかったラインだ。つまり私は初めて乗る。といってもロンドンの地下鉄は中心部をぐるりとまわる日本のJRや私鉄各社の四角い形の車両が走るセントラルラインやディストリクトライン以外はどれも同じ。チューブ状のトンネル内を走行するため天井の両サイドがせばまった窮屈な形の車両なのである。
ジュビリーラインができたおかげで、ボンドストリート駅からウエストミンスター駅まで乗り換え無しであっという間に到着。地下鉄を降りて改札口を出て案内板に沿って歩いていると、ギターの弾き語りが聴こえてきた。地下鉄のコンコースは音が適度に反響して上手に聴こえる様な気がする。30年前、映画「スティング」のテーマ曲を上手につまびく若者に感動した記憶が蘇った。コンコースで音楽を聴かせるミュージシャンの卵たちは足元に缶や帽子やギターケースを置き、通行人からカンパをもらっている。昔は誰でもできたらしいが、最近は許可無しで奏でることはできないらしい。ちゃんと市か交通局のオーディションをパスした者だけが許されているとのことだ。
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私たちは、耳は傾けながらも視線は向けず彼の前をカンパすることなく通り過ぎ地上に出た。目の前はテムズ川、川向こうにはロンドンの新たな観光スポットとなった大観覧車ロンドンアイがみえる。右手を見るとテムズ川に架かるウエストミンスター橋が、道路を挟んだ向こう側には国会議事堂に連なる高さ100メートル弱のビッグベンがそびえ立ち、先端で時を刻んでいた。まだ9時前だ、サトウさん到着まではまだ時間がある。私たちは開店準備に取り掛かった露店の土産物などを売る小さな売店をのぞきこんだり、ビッグベンを背景に記念撮影をしたりしてサトウさんを待った。

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