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第42話 音のない村 [コッツウオルズ]

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身軽になった私たちはボートンオンザウオターの街にくりでた。といってもホテルを出ればそこが静かなダウンタウンだ。コッツウオルズにある村の中でも人気のある場所だが、観光客はそれほど多くはない。鎌倉の長谷や大仏界隈の賑わいとは雲泥の差である。車のクラクションなどきこえない。鴨の鳴き声が聴こえる程度だ。川には5本の石橋がかかっている。車が通れるのは1本だけ、あとは歩行者専用だ。橋を行き来して川の両岸を歩いても15分もかからない。私たちは川べりにあるレストランに入り昼食をとることにした。いくつかのレストランの外に掲げられたメニューをみてまわっていると英語とともに日本語で書かれたメニューをだしている店もある。それだけ日本人も訪れるということだろうか。私たちが入ったのはレストランといってもフィッシュアンドチップスがメインの店。日本でフィッシュアンドチップス作りにチャレンジしたことはあるが魚が異なるせいか私の記憶にある本場のフィッシュとは別物に仕上がってしまった。本場のフィッシュアンドチップスは33年ぶりである。私たちは喫煙できるパティオ(屋外のテラス席)でいただくことにした。静かな村のレストランで川をながめながら青空の下で食事ができるなんて極楽である。帰国後のことは忘れ去り、今を満喫しつつ山のようなチップスも、シンプルな味の大きなフィッシュも平らげて店をでた。
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レストランを出た後、川沿いの遊歩道を外れ、村人の居住地に足を踏み入れた。どの道を歩いていても人とすれ違うことがない。家の中から人の声もきこえてこない。犬にも猫にもでくわさない。シェスタ(お昼寝タイム)の習慣など英国にはないはずだ。一人で歩いていたら、すべての村人たちが家の中から物音も立てずに異邦人の動向を監視しているのではないかと錯覚して恐怖に慄くかもしれない。昨日までのロンドンの雑踏が嘘のよう、とにかく静かな村である。
どの家も絵本に描かれているようなで作りで可愛らしい。中には大人が住む家にしては天井が低く小さすぎるのではないと思わせる小人サイズハウスもあった。しかし外には大人の洗濯物が干されている。普通の英国人が住んでいるのだろうか。また完全に屋根が傾いている家もあった。震度2程度で崩壊するに違いない。何か魔法の国に入り込んだような錯覚に陥る村である。
ボートンオンザウオターは小さな村だ。だから観光客はここに宿泊することもなく、バスできてダウンタウンで下ろされ、川べりを歩き、水辺のベンチで一休みしてから土産物屋をのぞいているうちに迎えのバスがやってきて、それに乗って次のコッツウオルズの村へ向かうのが定番なのだろう。でも私たちは静かなこの村に1泊する。車はあるが別の村を訪れる気などさらさらない。この静けさを存分に味わいたいのである。といって他に歩くところもなくなったので私たちは自動車博物館と、日本で例えるなら東武ワールドスクウェアのようなボートンオンザウオターの村全体をミニチュアで再現したモデルヴィレッジを訪れることにした。

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第41話 静かな静かなボートンオンザウオター [コッツウオルズ]

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昼少し前に目的地ボートンオンザウオターに到着。通りの右手に土産店らしき店がならび、左手には穏やかなウインドラッシュ川が流れている。川といってもテムズ川のような川ではない。幅は5,6メートル。子供が水遊びできるほどの浅さである。ここを訪れる前に見た写真ではそこを鴨がゆったりと行き来しているはずだ。その川の両側には公園と遊歩道がある。通りを150メートルもいけばダウンタウンを外れ住宅地に入ってしまう小さな小さな村である。
今日の宿泊先ダイヤルハウスは通りを少し奥に入った場所にあった。時代を何世紀も遡ったようなおとぎ話にでてきそうな外観を持つホテルである。それもそのはず築300年を経ているホテルなのだ。ホテル横の駐車場に車を停めると、奥の方から日本語らしきことばがきこえてくる。それも関西弁だ。泊りがけできたのだろうか。それともちゃっかり駐車場だけ拝借したのだろうか。宿泊したならもう少し早い時間にホテルをチェックアウトして、コッツウオルズの他の村へいくはずである。今頃車を出そうとしているということは、別の場所に宿泊して、今日の最初の訪問先としてボートンオンザウオーターに立ち寄ったというところか。つまり図々しい後者の連中に違いない。同じ日本人として恥ずかしい。もっとも確認したわけではなく、言葉のアクセントから私が勝手に解釈しただけだが。
スーツケースは2個トランクに積んであるが、ここで降ろして部屋に持ち込むのはひとつだけ。そのひとつで用が足りるよう、中身はちゃんとわけていれてある。駐車場は舗装されておらず砂利が敷きつめられているだけなので重たいスーツケースを引きずることもできず、手でしっかりと持ってフロントへ向かった。このホテルはレストランも有名で、宿泊者だけでなく村や近隣住人も食事を楽しみに訪れるという。食事にきたひとは正面の入口から入るが、宿泊者は裏手の勝手口のような小さな扉から入館することになる。もちろん都内のホテルのように、また箱根辺りにあるオーベルジュのようにドアマンなどは配されていない。ゲスト自らでドアを開けるのだ。
ドアをあけるとすぐ左手に小さなデスクがあった。オフィスにある事務机サイズだ。その向こうにF1レーサー、ルイスハミルトンのような青年が座って私たちを迎えてくれた。名前を告げ、メイルでうけとっていた予約確認書を渡す。青年はデスク脇のパソコンを操作し予約確認書に間違いがないことを確認した。そしてまだ部屋の用意ができていないと申しわけなさそうにいう。当然だ。まだお昼。午前中チェックアウトを終えたばかりの人もいるだろう。部屋の掃除やベッドメーキングだってできているはずがない。それは問題ないけどこのスーツケースを預かってもらいたいと私はハミルトンに告げた。ハミルトン青年は笑顔で快諾してくれた。

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