SSブログ

第76話 樽が並ぶ巨大な地下空間 [ニュイサンジョルジュ]

エルワンの作業を眺めているとフェブレイさんが戻ってきた。話し込んでいたのはイタリアの主要取引先だそうで、さきほど入口付近で見かけたマセラッティはその人の所有車とのこと。ではフェブレイさんの車はどれだったのか、何なのか。私の謎は深まり楽しみも増えた。
DSC00650.JPG
フェブレイさんについていくと大きなエレベーターに乗せられた。ここに展望台があるわけはないから多分地下に下りるのだろうと推測した。フォークリフトが載ることもできるエレベーターをおりると、そこには無数の木樽が綺麗に詰まれていた。トンネル状に広がる酒倉(カーブ)である。上のタンクで発酵したワインをこの木樽に詰めかえ、ここでしばし熟成させるのだろう。私たちの目に入った木樽はどれも新しい。
DSC00654.JPG
ひとつをのぞくと2008 Chambertin Clos de Bezeと刻印されている。できたてのほやほやである。トンネルはどこまで続くのかわからない。とにかく広大でため息がでる。他人の土地の地下を勝手に掘り進んで酒倉を作ったとは思えないから、この上もフェブレイ社の土地ということか。だとするとかなりの土地持ちである。もっとももともとは葡萄栽培をする農民なわけなので土地を保有していて当然といえば当然だ。土地持ちでなくては工場だって建てられない。初めて見る酒倉に感動しつつ私たちは再びエレベーターに乗り込み地上に戻った。
フェブレイさんが私たちに別の酒倉を見せてくれるという。ここだけではなくまだ他にもあるということか。移動のため一旦施設を出て、中庭を通り、アーチ型のトンネルを抜けて通りにでる。フェブレイさんご夫妻への土産物を持参していないことに気づいた私は部屋にかけあがり紙袋に入れておいた土産一式をもって再び合流した。
徒歩で先ほど最初にフェブレイさんと25年ぶりの再会をしたオフィス棟に向かう。歩いて2,3分の距離だったが他の通行人を見かけることもなく、走ってくる車もない。ボートンオンザウオター以上に静かな村である。歩いている間、会話しているときをのぞけばずっとフェブレイさんは鼻歌を口ずさんでいた。後できづいたことだが、フェブレイさんは絶えずこの同じ鼻歌を口ずさんでいたのである。曲は何だかわからない。アメリカ国家のようでもあるが、別の曲にも聴こえる。次回訪れた際も口ずさんでいたら確認しようと思う。
nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

第75話 7代目登場 [ニュイサンジョルジュ]

DSC00626.JPG
小休止の後、私たちは意味のなさそうな部屋の鍵を一応閉めて中庭にでた。フェブレイさんは選別作業をしている女性たちと何か話していた。選別作業で不合格とならなかったワインがどのような工程でワインに成長していくのか、施設内を移動しながらフェブレイさんは順追って説明してくれた。中庭から建物内に入ると直径・高さとも5メートルはあろうかという大きなタンクが数十個両側に並んでいる。ブドウを発酵させるタンクだ。タンクの横にはブドウの収穫された畑の名前が記された大きなラベルがはられている。すべてのタンクはコンピュータ管理されていて、施設内の壁に設置されたモニターを通して、それぞれのタンク内の状況がチェックできるシステムになっているという。人の手、目による作業を重視する工程もある一方、ハイテクも駆使してよりいっそう品質の維持に取り組む。ブランドに胡坐をかくことなくフェブレイブランドの向上に努める姿勢を強く印象付けられた。フェブレイさんの説明に耳を傾けながらゆっくり施設内を歩いていると反対側から若い男が歩いてくる。彼こそがフェブレイさんの次男坊、7代目フェブレイ社長となったエルワンだ。彼とは私も初対面。彼はまだ30歳になっていないはずだがスキンヘッドにしている。フェブレイさんの遺伝子を受け継ぎ頭髪の状況がかなり悪いに違いない。それをカモフラージュするためのスキンヘッドなのだろう。彼は私たちと簡単な挨拶を交わすと施設の奥に消えていった。
DSC00638.JPG
施設内にはフェブレイワインの取引先だという先客がいて、途中フェブレイさんは「ちょっとこの辺を見学していて」という言葉を残して、そのお客さんの方に向かった。私たちはタンクに沿って施設内を移動する。すると壁側からタンク内に何かを突っ込んでかきまぜている若者がいた。エルワンだ。彼もまた社長でありながら現場に立ってブドウと直につきあっている。こちらにきたらという誘いを受けてエルワンの立っている場所に向かう。
DSC00646.JPG
タンクとタンクの間に梯子があり、その梯子は登ると各タンクの中がのぞける高い場所に位置する狭い渡り廊下のような通路につながる。エルワンはタンクに先端に平板がついた長い棒を突っ込み、発酵中にタンク上部に浮きでた果帽といわれる果皮や種を果汁に押し込むピジャージュという作業をしていたのだった。腕で額の汗をぬぐうジェスチャーをしながら大変な力仕事だという。それはそばで見ていれば十分理解できた。

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

第74話 スイートルーム以上のVIP用アパルトメント [ニュイサンジョルジュ]

DSC00608.JPG
鹿鳴館にありそうな広く緩やかなカーブを描く階段をのぼった正面に私たちが2晩お世話になるVIP用アパルトメントの扉があった。旧い建物だから鍵は旧式で、蹴飛ばせば容易に開いてしまいそう。中に入ると大きなソファと大型テレビの置かれたリビングルーム。しかしプチホテルのロビーやラウンジより広い。天井も異様に高い。リビングはキッチンにつながっていた。7,8人は座れる大きな円卓が置かれ、これまたパーティーができるほど広い。コの字型に設置されたシステムキッチンの幅は広く何十枚の大皿を置いても問題なさそうだ。大型冷蔵庫には朝食に必要なバターから牛乳、卵やミネラルウオーターも収納されていた。数十本収納可能な定温ワインセラーにはフェブレイさんのところで作られたワインが何本か寝かされている。フェブレイさんは、この食材もワインも私たちのために用意したものなので全部使っていいという。いくらなんでも2泊3日では消費しきれない量だと思ったが。
DSC00602.JPG
リビングをでると廊下があり、中庭に面して二つのベッドルームがあった。どちらか好きな部屋を使ってくれとのことだった。両部屋とも一流といわれるホテルのベッドルームよりはかなり広い。テレビはないが、大きなクローゼットと必要最小限の照明は確保されていた。廊下の奥にトイレとバスルーム。これまた広いがバスタブは設置されておらずカーテンで仕切られたシャワールームがあるだけだった。ホテルのスイートルームよりも広い部屋というか住居を提供してくれるのだから贅沢をいってはいけない。重要顧客用の宿泊施設を造ったからブルゴーニュにきたら是非利用しなさいといわれてから15年ぐらいはたっただろうか。まさか自分が本当に利用させてもらえることになるなんて思っていなかった。一方フェブレイさんは、社交辞令で言っただけなのに、まさか図々しく本当に利用するとは想像していなかったに違いない。日本人は謙虚というレッテルがフェブレイさんの脳裏から剥がれたことだろう。
「ひと休みしたら施設内を案内するから中庭にいらっしゃい、私はしばらく階下にいるから」というフェブレイさんのお言葉に甘え、小一時間、奥さんいわく広すぎてくつろげない部屋で長時間ツーリングの疲れを癒すことにした。

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。