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第84話 優雅な朝食 [ニュイサンジョルジュ]

ブルゴーニュの収穫期の朝は早い。目覚めると窓の外からベルトコンベアの動く音がする。ベッド脇のテーブルに置かれた腕時計の針は8時を少しまわったところ。ベッドからでてカーテンをあけると眼下の中庭では、すでにぶどうの選別作業が始まっていた。フェブレイさんは繁忙期なので朝早くからうるさいかもしれないといっていたが何時から彼らは仕事をしていたのだろうか。コートドールの丘の上に広がる空には雲ひとつない。今日は雨の心配はなさそうだ。
夜7時を過ぎたらシャワーは使用しないで欲しいといわれていたので、昨夜はレストランから帰宅後そのままベッドにもぐりこんだ。午後7時以降のシャワー禁止令は、皆朝が早いので夜は早くに眠りにつくから無用な音はたてないで欲しいということのようである。シャワールームの下が朝早くから働く人たちの仮眠室になっているのだろう。そのかわり朝は早くからシャワーを使っても問題ないといわれていたので私は着替えをもってシャワールームに向かった。ホテルのスイートルームよりもはるかに広く、だだっ広いキッチンまであるのにバスタブはない。日本とフランスの生活習慣の違いか。バスタブで足を伸ばして「あー、いい湯だ」という気持ちはフランス人には到底理解できないに違いない。さっとシャワーを浴びてから香水を体中に撒き散らしてさっぱりした気分になっているのだろうか。香水より「バスクリン」や「旅の宿」といった入浴剤の方がよほどリラックスできると思うのだが。
入浴後は朝食である。ロンドンやリヨンのホテルのように階下へ下りていってもレストランはない。日本の我が家同様、お湯を沸かし、紅茶を入れ、トースターでパンを焼き、フライパンで目玉焼きを作らなければならない。ここには必要なものはすべてある。冷蔵庫に入ったバターも牛乳も卵も、私たちのために用意したものだから遠慮せずに使っていいといわれている。バターなど2泊3日の滞在では食べきれない。余ったバターはスーツケースに入れて持ち帰りたいぐらい大きかった。間違いなくフランスの乳製品の価格は安い。高速道路の両側には、絶えず牛が見えていたからそれも頷ける。
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昨夜レストランに向かう途中でアンさんが「ここのパンは美味しいから明日の朝届けてあげる」といっていたことを思い出した。社交辞令かもしれないが、シリアルとベーコンエッグではなんとも味気ない。バゲットやクロワッサンがあれば朝の食卓は一気に華やぐに違いない。私は確認のため開錠してドアをあけた。開いたドアの左右を見回したがパンらしきものは何もない。もちろん日経新聞も配られていない。念のため、らせん状の階段おりていく。すると館と外との境になっている扉の横にある下駄箱よりはるかに大きな戸棚の上に、バゲットが半分飛び出した状態の袋が置かれていた。アンさんは約束を忘れてはいなかったのである。

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第83話 レストランでのアクシデント [ニュイサンジョルジュ]

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食事中アクシデントがあった。私たちの隣のテーブルには男女二人ずつ、4人の外国人が私たちに背を向けるかたち座りディナーを楽しんでいたのである。彼らは英語で話していたので地の人間でないことは私でもわかった。フェブレイさんもアルコールが入り少しばかりテンションがあがり始めた頃、何かの話の途中で両腕を振り上げるおおげさなアクションをしたのである。腕を振り上げた瞬間、フェブレイさんの前にあった水の入ったグラスに手先が触れ、グラスは水を撒き散らしながら宙に舞い、やがて万有引力の法則にしたがって落下した。そして1脚のグラスが、いくつかのガラスの塊に変化したのである。水こそ隣の外国人にかかることはなかったが、ガラスの破片は彼らの足元にまで飛散したようである。店主を呼びガラスを片付けるよう支持するフェブレイさん。もちろん隣人たちに対しても深く詫びていた。
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隣人たちはカナダからはるばる訪れていたワインを愛する観光客だった。フェブレイさんが名をなのると、彼らは驚いたようである。フェブレイは北米でもブランド力が高いのだろう。彼らにしてみれば何でフェブレイのトップが東洋人の相手をしているのか不思議に感じたに違いない。会話の途中で時折私たちに奇異の眼差しでみる彼らをみてそれを感じ取ったのか、フェブレイさんが日本からきた友人であると私たちを紹介した。
ガラス破片の回収作業によってディナータイムを中断せざるを得なくなった以外、何も彼らに実害は何もない。しかし優しいフェブレイさん、彼らのために明日試飲会を開いてあげましょうと提案した。もちろん彼らが拒否することはなかった。明日の夕刻は私たちだけのために試飲会をしてくれることになっていたが、日中は日中で彼らのために試飲会を開くはめになってしまったのである。想定外の試飲会が明日のスケジュール表に組み込まれた瞬間、アンさんがどのような表情を浮かべたのかを、残念ながら私は見逃してしまったが。
レストランをでてから先ほどよりさらに静まり返った商店街を抜け、途中で記念写真を撮りながら寝床に向かう。フェブレイさんはとても上機嫌だったし、アンさんも体を寄せ合うような記念写真ポーズにも協力してくれた。こうしてニュイサンジョルジュの夜は更けていった。

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