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第48話 ヒースロー空港 マリア様に救われる [ロンドン]

トンネルを抜け出した私は大型車を借りないでよかったと胸をなでおろした。大型車だったらトンネルの中ほどでどうにもならない状態に陥っていたことだろう。しかしここはどこ、私は誰?の状態からはぬけだしていない。問題は何も解決していないのだ。今私が第何番のターミナルの敷地内にいるかなどということはどうでもいいこと。レンタカーの返却場所を探すことが先決だ。しかし左右を見渡してもHertzの看板はみあたらない。成田空港周辺ならそこかしこに看板が林立しているだろうに。不親切きわまりないとおこっていても問題は解決しないのだ。
ターミナル1か2を周回するとまた前方にトンネルがみえてきた。どうやらもときた道に戻りそうである。どげんかせんといかんと思ってみてもこのまま道なりにいくしかない。仕切り直しである。ロンドン市内方面にいってはいけないと左に左に走っていったら、なんとさきほどまで走っていた高速道路に合流してしまった。それも逆方向。つまり車はコッツウオルズ方面に向かっている。次の出口でUターンするしかないのか。すると前方にターミナル5方面への出口を示す看板がみえた。上り車線にもターミナル5の出口があったのだから下り車線にもあって当然だ。レンタカーの返却場所とどんなに離れていようが同じヒースロー空港内。空港敷地内を走っていればそのうちなんとかなるだろう。こんな事態を予測して、ボートンオンザウオーター以外に数あるコッツウオルズの小さな村のいくつかを寄り道しなかったことは正解だった。さらに高速道路を無料にしている英国国土交通省(そんな省があるかどうかは知らないが)には感謝しかない。もし日本のように有料道路だったら無駄な通行料を徴収されるところだったのだから。
今年できたばかりのターミナル5は、ターミナル1,2,3,4から少し外れた場所にあるようでターミナルビルや駐車場ビルといった建物が密集しているような印象もなく周囲の視界もひらけている。道なりに走っていくと真新しいターミナルビルに到着。Hertzの看板はないか周囲に目をやりながら走っていると前方に救世主を発見した。黄色と黒と白、Hertzカーラーに塗装されたバスである。事務所と各ターミナルビルと結び、レンタカー利用者の送迎を行っているバスだ。
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停車しているバスの前に回りこみ、雨の中傘もささずに、もちろん持ってもいなかったが、ドアをあけバスに向かって走っていった。謎の東洋人が自分に向かって走ってくるので何事かと恐怖を感じたかもしれない。アメリカだったら銃を向けられたかもしれない。ドライバーは女性だった。運転席のウインドウを開けたドライバーに私は「Hertzに車を返却したいが場所がわからない。あなたの後についていってもいいか」とたずねた。おばさんは困ったような顔をしたが、こちらのあせった顔を哀れんでか「OK」といってくれた。地獄に仏とはよくいったものである。英国の場合、地獄にキリスト、もしくはマリア様というべきか。おばさんドライバーに後光が射していた。

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第47話 ヒースロー空港 レンタカーの返還場所がわからない [ロンドン]

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空港は近い。燃料計の針は真ん中にあり、まだ半分近く残っていることを示していた。レンタカー屋の口車に乗って最初に満タンにした私が馬鹿だったのか。何十リッターかのガソリンをただでくれてやったことになると思うと腹が立つ。ポリタンクを調達してガソリンを土産に持ち帰りたかった。そんなことよりレンタカーの返却場所に迷えずにいけるだろうか。手元にはインターネットからひっぱりだした地図しかない。けちらずにちゃんとした道路地図を買っておくべきだったと後悔してみてもいまさらどうにもならない。
ヒースロー空港には5つのターミナルがある。成田と違って広大なのだ。私たちが今日搭乗手続きをするのは完成して日の浅い第5ターミナル。しかしレンタカーの返却場所はターミナルとは離れた別の場所にある。いやあることになっている。手元の地図によれば第1第2ターミナルに近いようだった。高速道路の表示板に最初に現れたのは第5ターミナルへの分かれ道。ここでおりないことは確かである。さらに本線を進む。すぐに第1第2ターミナル方面への分岐点になった。迷わずウインカーを点滅させて本線を離れる。ここからは勘に頼るしかない。ハンドルを握っているし、雨で視界は芳しくないし、視力の悪いには悪条件が重なりすぎていた。私は前夜頭に叩き込んでいた空港周辺の地図を思い出しながら車を走らせていたのである。本線を離れると何車線もある一般道に合流した。しかし一般道に入っても分岐が立て続けにあり、どこを曲がっていいのかはまったくわからなくなるまでに時間は要しなかった。あとは私の方向感覚を信じるのみ。前方に滑走路をくぐるトンネルが見えてきた。これを抜けてしまうと雪国ではなく、ターミナルが点在する空港の敷地内に入り込んでしまう。この辺を左折しなくてはと思ったときは遅かった。あわてて車線を左側にうつしたもののトンネル前にある最後の左折チャンスを逃したのである。トンネルに入るしかない。しかし私の車が走っているその車線、一般車が走る車線と次第に離れていき、一般車と平行する別のトンネルに進入していった。入り口からして狭い、1台が通るのがやっとである。さらにトンネル内に照明がない。気のせいだろうが道幅が少しずつ狭くなっているようにも思えた。はるかかなたに明るくなった箇所がある。出口だろう。でもこのまま走っていてサイドの壁にぶつかるのではないだろうか。不安はつのる。後方でライトが光った。慎重にゆっくりと走る私の車に向かってかなりのスピードで迫ってくる。クラクションまでならされた。ルーフにオレンジ色のライトが点灯していたのでタクシーであることは間違いない。でもタクシーが入ってきたということはトンネルから出ることは間違いなくできそうだ。
いまだ雨が降り続き日差しは皆無だったが、トンネルをでたときは太陽の光が燦燦とふりそそぐ楽園に到着したような心境だった。後方のタクシーにせっつかれるようにトンネルを抜けて道なりに緩やかな上り坂の狭い道をらせん状に走っていくとターミナルビルのタクシー乗り場にでた。どうやら私が通ってきたのはタクシー専用のトンネルだったようである。

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第46話 フルコースのブレックファースト [コッツウオルズ]

朝食も昨夜と同じ階下のレストランである。さすがに朝は宿泊者以外利用する者はいない。私たちの他に2組の初老のカップルがすでに朝食をとっていた。ロンドンのホテルのようにビュッフェではない。テーブルにはディナーのようなコースメニューが置かれており、飲み物から卵料理にいたるまで何種類かが記されていて、その中から選択する仕組みである。ルームサービスで朝食を注文するときのように昨夜のうちにドアの外に食べたいものや飲みたいものをチェックしたオーダーシートのようなものをぶらさげておけば時間的ロスもないのにと思う。しかし儀式を重んじる大英帝国のなごりだろうか、テーブルにわざわざオーダーをききにくるのだった。
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テーブルに置かれた食器は、ホテルチェーンの食器洗い機や乱暴なウエイターの扱いにも耐えうるような輝きのないものではない。日本のデパートの特選売場で販売されているブランド品ある。紅茶も私が前々から欲しいと思っていた真鍮製のポットで供される。しかし問題が生じた。私たちは8時にはレストランに入り、30分から40分で終え、部屋に戻り各自用足しをして9時半前、それも限りなく9時に近い時間帯にはチェックアウトする予定だった。そうすれば、たとえ道に迷ったとしても12時過ぎにはヒースロー空港のレンタカーオフィスに到着できるはずなのである。ところが最初のトマトジュースや紅茶が供されてから次がなかなかでてこない。卵、私の場合目玉焼きとソーセージなどはひとつの皿に盛ってくれればいいのにそうはいかない。上品なのである。卵をもってきてからソーセージが出てくるまで間があくのだ。それにコース料理だけあってその他にもいろいろとおまけがつく。せっかくのんびりした場所にきたのだから会話を楽しめというのだろうか。でもこちらにも予定があるのだ。
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リヨン行きの飛行機に乗り遅れたらどうしよう。私たちが搭乗する4時以降のフライトは1便しかない。でもそれも満席のはずである。ヒースロー空港でスーツケースに座り込み、途方にくれる私の姿が脳裏に何度となく浮かんだ。
すべてを食べつくし飲み干した私たちがレストランを出たのは9時過ぎだった。30分は予定をオーバーしている。私たちは部屋に戻り身支度を整え、傾きかけた部屋に別れを告げた。フロントデスクにはルイスハミルトンが座っている。この人は24時間勤務なのだろうか。あるときはフロントマン、あるときはバーテンダー、そしてあるときはソムリエ兼ギャルソン。英国版多羅尾伴内のような人である。料金はディナーの時にオーダーしたワイン代が加算されて日本円で5万円強。ほぼ予定通りである。ボートンオンザウオーターとホテルの感想を聞かれたので、「必ずまたきます」と社交辞令を述べた。
トランクにスーツケースを積み、私たちはホテルの駐車場をでてヒースローにつながる高速道路M4を目指す。雨はあいかわらず降っているような降っていないような。ワイパーを常時作動させる必要もないほどの振りだった。

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第45話 川に携帯灰皿を落とす [コッツウオルズ]

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朝食前、奥さんの一服につきあって外に出る。奥さんは日本から持ってきた折り畳み傘を手に、私は今回の旅に傘を持参していなかったので手ぶらだった。絶え間なく雨は落ちていたが大粒ではないし、しとしとというまでもいかない程度の降り。雨に濡れている気はしないが、しばらく歩くと髪や服が湿っぽくなっている、一番厄介な降り方といえるかもしれない。川べりの公園には誰もいない。当然いかなる店もオープンしていないから舗道を歩く人影もない。ゆったりと流れる小川の音と朝早くから川下りを楽しむ鴨の鳴き声が時折きこえてくる。静寂という言葉がこれほどマッチする村は世界のどこにもないに違いない。
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小さな橋を渡り、私たちが宿泊したホテルが正面に見える川沿いの舗道で立ち止まった奥さんは、ポーチから煙草をとりだしライターで火をつけた。煙草を吸わない私にはわからないが、空気の澄んだ、こうした場所での一服は、ホームの端の喫煙スペースで吸う煙草よりはるかに美味しいのだろう。住人の迷惑、環境問題などをまったく無視できればの話だが。「あっ」という声を奥さんが発した。昨今のヨーロッパには煙草を吸える場所は皆無に等しいという私の脅し文句を信じていた奥さんは、今回の旅行に携帯灰皿を持参していた。外で一服するときはその携帯灰皿を利用していたのだが、どうやらそれを川に落としたらしい。幸い携帯灰皿は川底に沈むことなくなんとか浮いている。また川の流れがゆっくりなので下流にどんどん流されるということもない。奥さんは私に助けを求めているようだった。私は奥さんの持っていた傘を奪い取り、傘を裏返して川に差し入れた。ドーム状となった開いた傘の内側で川の水とともに携帯灰皿をすくいあげようという作戦である。ところがだ、緩やかに見える川の流れも意外と強い。傘が裏側に水が入ると傘がどんどん流されるのがわかる。さらにこのまま川の流れに身をゆだねると傘の骨が折れることは間違いない。私は傘の内側にたまった川の水を落としながら傘を川から引っ張りあげた。
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携帯灰皿はあきらめるしかない。これを機に煙草をやめればいい。と私は言った。しかし奥さんはあきらめない。靴も靴下も脱いで川に入れば容易に取ることができることはわかっている。しかし灰皿ごときをとるために私がそんなことをする必要もない。まして川に入り込んでいる私を住人に見つけられたら、東洋人が鴨を生け捕りにしようとしていると通報され逮捕されて国際問題に発展する可能性もある。私はもうこれ以上何もしませんよという意思表示をした。すると奥さんは少し下流に行き川べりにしゃがみこんだ。どうやら川の中に手を突っ込み流れてくる灰皿をキャッチするつもりのようである。川べりの舗道と川の間は少し傾斜しているので安定が悪い。奥さんは片手を差し出し私におさえていてという。どうやらバランスを崩して川に転落することを防ぎたいようだ。それとも川に落ちるときは道連れにしてやるという魂胆だろうか。差し出してくる手を払いのけ、しゃがんでいる奥さんを軽く足でければ彼女だけ川に転落させることもできる。転落しても深させいぜい30センチ。溺れ死ぬこともない。そんな衝動にかられながらも私は奥さんの手をしっかりと握っていた。
川の中ほどに流されることもなく、なんとか手の届く川べり灰皿が流れてくる。これを逃したらあきらめるしかない。絶妙のタイミングで奥さんは川に手を入れた。そして奥さんは大事な携帯灰皿をキャッチしたのである。私たちは鴨の密猟者の嫌疑をかけられ、地元警察署で冷たいパンと牛乳を食べることもなく、ホテルで豪華な朝食にありつけることとなった。水辺で大事なものを扱うときは細心の注意を払うべきできである。私たちがボートンオンザウオーターで学んだ教訓である。

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