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第73話 25年ぶりの再会 [ニュイサンジョルジュ]

25年ぶりの再会である。もともと頭髪がふんだんにあったという記憶はないが、彼の頭部の状況はいっそう悪化している様子だ。もちろん彼も私の変貌振りに驚いたであろう。開口一番随分遅かったねといわれたので、私は高速道路で事故があり渋滞したこと、さらに道に迷ったことも説明した。彼は長旅の私たちを気遣ってくれたのだろう。オフィスやカーブ(酒倉)の案内は後にして、疲れているだろうからとりあえず宿舎であるVIPアパルトメントに行こうといってくれた。そして私たちは今歩いてきた迷路のような通路を逆戻りして駐車場まで戻ったのである。今度はフェブレイさんが明かりを点けたり消したりしながら。
VIP用アパルトメントはここからすぐ近くにあるとのことだった。最初フェブレイさんは私たちのオペルに乗り込み案内するつもりのようだったが、オペルの後部座席は倒され大きなスーツケースが積まれていて私たち以外の第三者が乗車できるスペースがないことに気づくと、自分は歩いていくから先に行ってくれという。門をでたら右折して橋の手前をさらに右折してしばらく走ると縦にFAIVELEYの看板が掲げられた建物がある、そこがVIP用アパルトメントだという。
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建築されてから何世紀も経ていると思える石造りの建物の2階がVIP用アパルトメントだった。1階には顧客を招いてのテイスティング(試飲会)やセミナーを開く大きな会議室があり、その他はワイン造りに従事するするスタッフの事務室と宿舎になっているそうだ。道路から外れ小さなアーチ状のトンネルを抜けると周囲を貯蔵庫などで囲まれた作業場を兼ねた中庭にでる。中庭は広く、周辺の著名な畑から収穫されたばかりのブドウを満載したトラックが何台かとまっていた。隅の方では何人かの女性たちが、持ち込まれたブドウをひと房づつ手にとって丁寧に選別していた。この手間のかかる作業があるからこそFAIVELEYのワインは世界で高く評価されているのだろう。選別作業をしている人の中に娘がいるとフェブレイさんがいう。今現在フェブレイさんはリタイヤして事業を次男坊に譲り、スイスのレマン湖畔に移住した身だが、元社長の娘、現社長の姉であっても汗を流す、現場第一主義を貫いているのだろう。日本のドラマにでてくるような高級外車を乗り回すわがまま令嬢とは随分差がありそうだ。

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第72話 フェブレイ社到着 [ニュイサンジョルジュ]

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フェブレイ社の正門?は日本の工場のように幅がある。ワインを積み込む大型トラックが出入りするからであろう。構内に入ると両脇に自家用車が停まっている。従業員のものだろうか。門近くに駐車している青いマセラッティ・クアトロポルテはフェブレイさんの車かもしれない。フランス人がイタ車に乗ってはいけないという決まりはないのだから。
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私はゆっくりと車を走らせ社屋への入り口、つまり玄関か通用口を探した。すると突き当たりとなってしまい道なりに左手におりていくしかなくなった。下り坂をゆっくりとおりると、再び広いスペースに出た。建物の両側にはプラットホームが設置されている。ここはトラックを横付けしてワインを積み込む倉庫なのだろう。しかしシャッターはおりており、積み込むトラックもない。もちろん内部につながるであろうドアも見つからない。私は大きく車をユーターンさせ再び今きた道を戻り門に向かった。するとさきほどはなかったが、フェブレイのシンボルマーク、ブドウを踏み潰しているライオンが描かれたルノーの小さなトラックが停まっていた。そしてその横の建物に先ほどは気づかなかったがドアがある。インターフォンのようなものも見える。私は車を邪魔にならないところに停めてその入口に向かった。
インターフォンを押してしばらくすると男がでた。私の名前とフェブレイさんに面会にきたと英語で伝えると、英語ですぐにいきますとの答えが返ってきた。さすが世界各国と取引のある企業だけのことはある。社内では英語も公用語なのだろう。しばらくすると扉があき大柄な男が立っていた。もちろん面識のない人物である。彼は私たちの車がどこに駐車しているかを確認した後、私たちを建物内に招きいれた。そこは先ほどの倉庫につながる作業場なのだろうか。ワインの入った段ボールや木箱が山積みにされたパレットがいくつか見受けられる。稼動してはいなかったが男の背後にあるのはベルトコンベアだろう。そこで男に再びフェブレイさんに会いに私たちははるばる日本からやって来たと告げた。すると彼はポケットから携帯電話を取り出して誰かに電話をかけた。もちろんフランス語である。電話を切ると彼は、フェブレイのところに案内するという。どうやらオフィス棟は別のところにあるらしい。ここはあくまで倉庫兼作業場ということなのだろうか。
男は薄暗い迷路のような通路を、明かりをつけたり消したり繰り返しながら私たちを誘導してくれた。省エネが徹底されているのだろう。2,3分歩くと大きな廊下にでた。廊下の片側には何枚かの肖像が飾られている。あとでわかったが、フェブレイ家代々の当主、つまりフェブレイ社の社長の肖像画だった。私たちの足音に気づいたのか、廊下の途中のドアから案内してくれた男よりもさらにひとまわり大きい男が出てきた。フェブレイさんだった。

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