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第14話 レミゼラブル(ああ無情)前編 [ロンドン]

ピカデリーサーカスの東側、ウエストエンドといわれるエリアにはブロードウエイのように大小たくさんの劇場がありミュージカルを楽しむことができる。私たちはロンドン初日の夜、本場のミュージカルを観ることにした。当日券の残りを販売しているチケットセンターに入り今夜観賞できる出し物を尋ねた。みどりの窓口より狭い店内は、前売り券を買わずに少しでも安くチケットを手に入れようとする輩、まるでスーパーの閉店間際に入店するケチ、よく言えば倹約家たちで賑わっていた。まあ私たちもワンノブゼムといえないこともないのだが。マンマミーアを観たかったがあいにく売り切れ。レミゼラブルなら席があるというので料金を尋ねると二人で100ポンド(約2万円)との答えが。奥さんにどうするか確認すると「それにしよう」という。100ポンドが日本でいくらなのかわかっているのだろうか。寝不足で感覚が麻痺しているのかもしれない。しかし、せっかく観ることができるチャンスなのだからと思い席を確認した後、購入した。劇場はチケットセンターのすぐとなりにあった。開演まで時間がないため私たちはロンドン初日の夕食は、ミュージカル鑑賞後、日本時間なら翌日の朝食時間帯にずれこむことになったのである。
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劇場内はそれほど大きくはないが、最新設備を備えた日本の劇場とは異なり、歴史を感じさせるそれなりの雰囲気を漂っている。私たちが着席した頃、まだ席の半分以上は空席だった。やがて前の列に陽気なスペイン人の観光客と思われる団体さんが着席した。なぜだかわからないが皆さん興奮気味でテンションも高く声が大きい。背後には英国人カップルが着席した。顔は見ていないが発音や話の内容からして現地人と判断しただけである。私たちの席は通路側から二番目と三番目。奥さんが通路側に近い席に座った。つまり通路側が一席空いていることになる。開演が近づくにつれて空席は徐々に少なくなっていく。皆、劇場内のパブで一杯飲んだり、周辺のレストランで食事を済ませたりしてから席に着くのだろう。いつのまにか奥さんの隣の席には二十代前後のレディーが座っていた。彼女が奥さんに何かを尋ねてきたのだが、わからないので彼女の話をきいてくれという。彼女は終演時間を知りたがっていたのだ。良く聞き取れないがロンドン南部からきたらしく時間によってはバスがなくなってしまうというのである。私はプログラムももっていないのでわからないが、2時間公演したとしてだいたい10時頃には終わるのではないかといい加減に答えた。彼女はGパンにTシャツというような軽装ではもちろんない。ミュージカル鑑賞に相応しいそれなりのドレスを身にまとっていたが発音にエリザベス女王のような気品がない。ロンドン南部の下町のお嬢といったところだろうか。その彼女、私の回答を疑問視したのか、後ろの席にいた英国人カップルに同じ質問をしていた。彼の答えも同じだった。後で奥さんにきいたのだが、彼女、あなたのご主人はフランス人かともたずねてきたそうである。私のルーツはベルギーの貴婦人だそうだから、彼女には私の背後にある何かが見えたのかもしれない。

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第13話 ソーホー地区の建物の外に群れをなす集団 [ロンドン]

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リージェントストリートを歩いていると交差する細いストリートの向こうに、ものすごい数の人だかりを発見した。何か事件、それを見物する野次馬か、それとも今宵のミュージカルを観る人たちがすでに劇場の外で列を作っているのかと思った。私たちは確認すべく脇道に入った。その群集に近づいて初めてその人たちが何をしているのかがわかった。彼らが立っているのはパブの外。つまり店内では煙草をすえないので、彼らはラガーの注がれたジョッキを片手に店頭で一服していたのである。それにしてもものすごい人数である。それが、一箇所ではなく、パブというパブの店頭がすべてそういう状態なのだ。当然半分以上の人は車道に溢れでており車が通るたびにけたたましいクラクションを鳴らされている。こんな光景も20世紀には見ることはなかった。
ピカデリーサーカスを基点に、トラファルガースクウェア方面、オックスフォードストリート沿い、シャフツベリーアベニュー、グロセスタースクウェア、ソーホー界隈は、33年前のロンドン滞在時にほとんど毎日のように散策していたので地理は頭に叩き込まれているはず。ものめずらしさではなく、懐かしさからきょろきょろしながら、ロンドンらしからぬあまり上品とはいえない鮮やかなネオンが灯りだした通りをグロセスタースクウェアの劇場街に向けて歩いていると東洋人ではない明らかに西洋人と思われる女性に声をかけられた。チャイナタウンはどこかというのだ。ディナーに招かれているとのことでかなりあわてている。私は三十年前の記憶を呼び戻し、自信ありげにチャイナタウン方面を指差した。彼女はお礼を述べた後、私の前からチャイナタウン方面の雑踏の中に消えていった。しかし彼女は私をロンドン住人と思ってたずねてきたのか、それとも中国から来たツアー客なら中華街がどこにあるかは百も承知だろうと思って尋ねてきたのか。確かめようもないが多分後者だろう。
ところがどっこいこのチャイナタウン案内話には落ちがある。それから何時間後か、ホテルへ帰る途中でチャイナタウンに紛れ込んでしまったのだが、その場所は、さきほど女性に尋ねられたときに自信ありげに指示した方向とは真逆だったのである。チャイニーズレストランを探して危険なソーホーエリアを彷徨っているあの女性に遭遇しないよう私たちはうつむき加減にホテルへ急いだことはいうまでもない。

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第12話 オックスフォードストリート、オクスフォードサーカスの人の多さに仰天 [ロンドン]

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成田を離陸してから半日以上が経過している。日本時間ならすでに深夜だ。部屋にスーツケースを運び込み、このまま疲れを癒すべくベッドにもぐりこむわけにはいかない。ロンドンはまだ夕方なのだ。私たちは一休みした後、街にくりでることにした。
ホテルの前は時折車が通る程度で静かな方だが、5分も歩けばオックスフォードストリート、日本で例えるなら銀座通りに出てしまう。三十数年前とはいえ1年余り滞在したことのあるロンドンだ。オックスフォードストリートを挟んでホテルと反対側に私の通っていた学校はあったから、どういけばどこにでるのか脳裏に焼きついているし方向感覚もばっちり。私たちはオックスフォードストリートを目指した。
建物の間から聞こえてくる車の音が徐々に大きくなり、やがて通りを走るダブルデッカー(2階建てバス)の姿が見受けられるようになった。通りにでて私は唖然とした。人が異様に多いのである。かつてこんな大勢の人が往来するオックスフォードストリートは見たことがない。オックスフォードストリートは車道の幅が狭まり、バス停をのぞけば片側1車線になっている。その分、歩道はかなりスペースがあるのだが、そこに人があふれている。銀座通りのように行き来する人たちの大半が黒髪というわけではなく、金髪、シルバー、茶髪、黒髪と多種多様のせいか目が疲れる。金曜の夕方だから特別なのか人の波に乗って歩かないと逆流に飲み込まれ静止せざるをえない状態になる。そんな雑踏の中、私たちはリージェントストリートと交差するオックスフォードサーカス方面に歩く。ここでまたしても呆然。交差点に群がる人の多さにびっくりだ。かつてのロンドンではない。これでは渋谷のスクランブル交差点と同じである。オックスフォードサーカスの近くには先ごろ日本進出を果たし連日長蛇の列ができているというスウェーデンのファストファッション店H&Mが2軒あった。ロンドンの店はそれほど混雑していないようだ。リージェントヘアーのように一直線ではなく緩やかに湾曲したリージェントストリートをピカデリーサーカス方面に歩く。途中、在住時には連日のように顔をだした大型玩具店ヘムレイズに立ち寄る。店内は大混雑しており、日本のキャラクター商品などもうっている1階だけをぐるりと見てまわっただけで外にでた。この店は日本の銀座博品館をさらにさらに大きくしたような玩具店で、各フロアにはこれでもかというぐらい多種にわたる鉄道模型やぬいぐるみなどが販売されていた。でも多分現在は私が滞在していたときとは異なり他のフロアではゲーム機のソフトが主流になっているに違いない。いずれにしても美術館同様、玩具店は半日以上かけてゆっくりとみてまわらなくてはいけないのだ。

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第11話 やっぱり冷蔵庫のないホテルの部屋 [ロンドン]

周辺の建物と調和した石造りのホテルは予想通り5階建てぐらいだった。これでも築100年ぐらい経っているのかもしれない。車寄せなどはなく正面入口の前は歩道を挟んですぐ道路である。裏道なので車の通りは少ない。オックスフォードストリートから50メートル程度奥に入っただけなのだが静かでロケーションは合格点だった。正面入口に4、5段の階段がありそれを昇るとドアがありロビーというつくりだ。私たちは2個のスーツケースをもって階段を登りロビーにはいる。ロビーといっても都心にあるような一流ホテルのロビーを想像してもらっては困る。左手にチェックインカウンターあり、右手にソファーが2セットぐらいあるだけだ。正面はラウンジなのだろうが、バーと兼用なのだろう、席数は極端に少ない。とにかく全部あわせて20坪ぐらいのスペースしかない。アメリカンスタイルの巨大ホテルからすると驚くほどの狭さだが、ヨーロッパのホテルはこれがあたりまえなのだ。
フロントには英国人とは思えない発音の男性がいて応対してくれた。サービスも問題ない。チェックインは速やかに行なわれカードキーを手渡された。カウンターの横にいたポーター(といっても専門職ではないようで、職務はいろいろありそうな人だった。実際、彼がフロントをしているときもあった)にスーツケースを部屋まで運ばせますかときいてきたが、奥さんもひとつのスーツケースをひきずれば持てない量でもないのでお断りした。空港での両替のための買い物が無駄になるがコストセーブである。フロントの横を少し歩くとリフト(エレベーター)が1基あった。その横には階段もある。正面玄関から離れ外気のあまり流入しない場所になると、絨毯のにおいなのだろうか、ヨーロッパのホテル独特の香り、匂いがする。私たちの部屋は2階、日本式でいうと3階にあたるフロアにあった。リフトをおり案内表示に従い部屋を目指す。絨毯が敷きつめられているのでスーツケースのキャスターがうまく作動しない。私は面倒くさいので手で持って運ぶことにした。
部屋は予想したほど狭くはなかった。かなり腰の高いダブルベッドがひとつあり、壁際の長いデスクには小さなテレビも置かれていた。トイレとバスルームはもちろん一緒だがとても広い、日本のビジネスホテルのような息苦しさはない。部屋には窓が二つあったが、中庭というか裏庭をはさんだ向こう側に、別の建物が見えるだけ。その後方には建築中のビルのクレーンが見えていた。
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景色はまったく期待していなかったのでこれで十分である。部屋をひととおりみて気づいたことがあった。やはり冷蔵庫がないのだ。飲み物は窓とカーテンの間において置くしかないだろう。西日も射さないし、朝晩はすでに冷える陽気だから冷蔵庫としてそのスペースが機能してくれるだろうと思った。冷蔵庫はないが奥さんがにんまりしている。理由をきけばこの部屋は喫煙可だというのだ。外に表示してあったという。奥さんにとって今回の英仏旅行最大の憂鬱は煙草が自由に吸えないということだった。特にロンドンではホテルはもちろんどこにいっても吸えないかもしれないと脅かしておいた。それでも成田空港出発前には免税店で私のパスポートもかりて2箱の煙草を購入していたが。日本を発つ前、どのガイドブックをみてもインターネットで調べてもそのように書かれていたが、現状の英仏より日本の方がよっぽど喫煙者には住みにくいというのが煙草を吸わない私の結論である。

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第10話 ホテル着 [ロンドン]

タクシーはオックスフォードサーカスと平行して走る車も人通りもあまりない裏道を東に向かう。この道のどこかで右折もしくは左折すればホテルだ。ロンドンでのホテル選びのポイントは、部屋からの景色でも、部屋の装備でもない。私はどこへ行くにもアクセスが良く、リージェンツパークを突き抜ければ歩いてサトウ家に行かれ、ピカデリーサーカスやボンドストリートなども徒歩圏内、加えて地下鉄の駅も近いホテルを選んだのだった。ロンドンの宿泊料金は高い。東京の一流ホテル並みの料金を支払っても部屋に冷蔵庫があるという保証はない。私は世界中どこの都市にでもあるホテルチェーンのひとつを選択した。1泊3万円程度だが、高層ホテルではない。閑静な住宅街の一角にあるせいぜい5階建てぐらいのホテルであろうと予測していた。
ホテル近くにきてタクシーの速度は極端にスローになり、ドライバーが左右キョロキョロしている。挙句の果てに再度ホテルの住所を記した紙を見せてくれといってきた。ロンドンタクシーのドライバーになる試験は厳しく、裏道も含め市内の道の名を全て覚えなければならないとかつてきいたことがある。ロンドンAZという大小全てのストリートの名が入った地図を片手に市内を真剣な顔で歩いている人間に出くわしたら、彼は次回のタクシードライバー試験の受験生だと思っていいといわれたこともある。彼は道の名を忘れたのか、それともその道の所在が曖昧なのか。いずれにしても昨今の試験はかなり甘くなりつつあるということだろうか。それとも私たちの宿泊するホテルがいかにマイナーであるかということも認識しろということなのだろうか。
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幸いホテルの入口前の駐車スペースかあいておりドライバーはそこに車を停めると助手席や後部座席にあった荷物をおろしてくれた。少し道に迷ったとはいえ、運転も乱暴でもなく言葉遣いも横柄でなく、良心的なドライバーだと思ったので、私は運転席の窓越しにメーター料金に加えてプラス数ポンドのチップを渡した。運転手は満面の笑顔でホテル前から走り去っていったのである。ちょっと気前が良すぎたかもしれないと後悔しても後の祭り。手持ちの現金ポンドは一気に減少してしまったのである。

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第9話 なつかしい街並みを抜けてロンドンセンターへ [ロンドン]

タクシーは空港敷地内をしばらく走った後、市内へつながる片側3車線の大きな道路にでた。さあいよいよ懐かしいロンドン市内へ向かう。空港から市内へ向かう際、右手には三十数年前ポールマッカートニーとウイングスのライブも見たこともあるハマースミス劇場があるはず。まだ昔の姿のままあるだろうか。現地の時間で午後4時過ぎ、日本時間では深夜の0時をまわっていることになるが、時差ぼけなどとは無縁の私の心は躍った。
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タクシードライバーは空港から王道を通って市内へ向かっているようだった。私がロンドンを訪れるのは6回目になるが、ある時、空港から乗ったタクシーがまったく幹線道路を通らず、裏道ばかりを走ったことがあった。私はどこへ連れていかれるのだろうかと不安ではあったが、方向的には市内中心部に向かっていることは間違いない。そして予想よりも早く、目的のホテル前に車は横付けされたのだった。加えて料金もそれまでの利用した中で格段に安い料金だったのである。私はドライバーに、知らない道を通るのでとても心配だったと笑顔で告げ基準以上のチップを加算してドライバーに手渡した。その結果、王道を通ってくるのと同じぐらいの出費になってしまったのだが。まあ時間を買ったと思えば得をしたといえば得をしたわけである。
ハマースミス劇場を右手に見ていよいよ私たちは中心部に近づいていった。それにつれて渋滞もひどくなりつつある。しかし今日のドライバーは横道にそれることなく、ハイドパーク方面に向かう幹線道路をそれようとはしない。やがて街路樹の向こうに、一面に広がる芝生の緑が眩しいハイドパークにでた。懐かしい。ただそのひとことである。この風景を再度見ることを何年待ち望んだことか。ハイドパークに入ってドライバーは幹線道路を外れた。幾度となくこの界隈は車やバスで通り、歩いたことがあるが、ハイドパークを南北に突っ切るようなこの道を通った記憶はない。渋滞緩和策として仕方なくハイドパークの一部を道路にしたのだろうか。車窓の両側にハイドパークの芝生を眺めてしばらく走ると私たちはマーブルアーチのそばに出た。もうそこは市内のメインストリート、オックスフォードストリート。そしてホテルも間近だ。

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第8話 タクシーがいない [ロンドン]

スーツケースをひきずりながら屋外にでる。歩道はもちろん土ではないが、ここで初めて12年ぶりにロンドンの地を踏んだということになるのだろうか。青空が見える。ロンドンの青い空。アルバート・ハモンドの唄を口ずさみたかったが忘れていた。歩道の一角に黒い集団がたむろしている。タクシーを待つ集団か、あれだけいるとなると私たちが乗車するまでに30分以上はかかるだろう。しかし、そこはタクシー乗り場でもなさそうだ。となると窃盗団か。私たちのスーツケースをもつ手に力が入る。用心しつつ近づいていくと、どうやら彼らも長旅の末、到着したばかりなのだろう。久しぶりの一服を味わっていたのである。
案内表示にしたがってタクシー乗り場に向かったが、客待ちで列をなすタクシーも見当たらない。それどころか通りにタクシーが走っていないのだ。空港内を巡回しているらしい空港職員がいたので不安になってタクシー乗り場を確認すると、確かにここだという。ここで待っていなさいというのだ。嘘つきにも見えないのでその場にとどまっていると、後から続々とタクシーを利用しようとする人たちがやってきて、タクシー乗り場には列ができてしまった。しばらくするとターミナル前のメインストリートをそれてタクシー乗り場につながるレーンに1台のタクシーが入ってきた。これで市内にいける。私たちの前でとまった黒塗りのタクシー。数年前より多少小ぶりになったような気がした。私はロンドンタクシー乗車の法則に従い、乗り込む前に助手席側の窓越しに「ホリデーインオックスフォードサーカス」と行き先を運転手に告げた。運転手は承諾した後、おりてきて私たちの持っていた二つのスーツケースのうちひとつを助手席に積み込んだ。
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日本のタクシーと異なりロンドンタクシーの助手席側は荷物置き場兼運転手のプライベートスペース。愛犬が乗っていることだってあるのだ。日本のタクシーのように自動ドアではないから、私たちは自ら後部ドアをあけ、もうひとつのスーツケースと手荷物を後部座席に積み込む。ロンドンのタクシーの中は向かい合う補助椅子をつかえば5人は乗車できるほど広いので、足元にはまだまだゆとりがあった。運転手も乗り込みいざ出発と思ったところに、さきほどの空港職員らしき人物がやってきて、やはり助手席の窓越しに運転手に向かって何かを言っている。どうやら正規のタクシーであるという証をみせろということらしい。運転手は助手席の前にあった書類を見せる。日本でいうところの白タクが横行して観光客を勝手に乗車させ、法外な運賃を要求するような事件が多発しているのかもしれない。物騒なロンドンになったものだ。空港職員は運転手のことを正規のドライバーと確認したようでゴーサインをだした。

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第7話 小銭欲しさに水を買い つり銭もらってレジに品物忘れる [ロンドン]

税関を出るとそこには相当数の出迎えの人がいた。面識のない相手を市内まで送るために乗客の名前を記したボードを掲げているタクシードライバーもいる。それらの間と通り私たちはスーツケースを置いてひと休みできるスペースのあるロビーに出た。黒人、白人、東洋人、雑多な人種がロビーにいる。この中に到着したばかりの観光客、特に日本人を狙ったスリや置き引きがいるに違いない。そう考えるとパスポートや現金の入ったバッグを持つ手に力が入る。私たちは天井からぶら下がる看板に目をやり、タクシー乗り場を示すサインを探した。空港から市内までは地下鉄でもいけるようになったし、昨今はパディングトンエクスプレスなる市内と空港を15分弱で結ぶ高速列車まであるらしい。だが、二つのおおきなスーツケースを持って移動すること、二人分の運賃とを天秤にかけた結果、市内へは黒塗りロンドンタクシーで行くことにしていたのである。
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私は出発数日前に円をポンドとユーロに交換しており、300ポンド近い現金を所持していた。しかし5ポンドから50ポンドの紙幣だけ。タクシーの運転手へのチップは紙幣で大丈夫だが、ホテルで部屋に荷物を運んでくれたポーターに5ポンド差し出すことは、いくらスーツケースが2個あるからといって気前が良すぎる。私は奥さんにしっかりスーツケースを監視するように言い残した後、小銭を調達すべくコンビニのような店に入った。そこで5ポンド紙幣を出してお釣りとしてできるだけコインを集める算段である。ミネラルウオーターがちょうどいい価格帯だったのでレジに持っていき精算する。思惑通り1ポンドコインが何枚かある。釣銭を受け取りながらにんまりする。子供のお使いのように釣銭を握り締めて店をでると、背後で店員が私に向かって何か言っている。振り返ると店員は私の買ったミネラルウオーターを手にして私を呼び止めていたのだった。私は釣銭だけ受け取って買った商品を忘れてきたのである。

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第6話 私は不審者ではない [ロンドン]

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バッゲージクレームで預けたスーツケース2個も無事に手にすることができた私たちは、がらがらとスーツケースを引きずりながら最後の難関、税関検査所へ向かった。税関検査といっても何もスーツケースを開けさせられて、不審物を発見せんがためにきれいに収まった衣類などをぐちゃぐちゃにし、何も見つからなければ「サンキュー」のひとことだけで、さらに早く片付けて次の人のためにここのスペースを開けろみたいな視線を担当官から浴びせられることはない。不審な人物だけをピックアップして通路脇、もしくは別室で検査を受けるというシステムである。こちらは善良な夫婦もの。銀婚式を記念して遠路はるばる英国にきて、何日間で莫大とはいえないまでも、そこそこのポンドを消費しようといている旅行者なのだから後ろめたいところは何もない。しかし、なぜか「おれの目は騙せないぞ」というような鋭い目つきをする担当官の前を素通りするのは怖い。目をそらすような不自然な動きになってしまうのだ。
実際、かつてボストンの空港で他の乗客は何ごともなく通過したのに私だけ呼び止められてスーツケースを開けさせられ、隅々まで執拗なチェックを受けた経験もある。訪問先で見せるための会社案内のおさまったビデオテープを発見され、中には何が入っているのか内容を説明しろとしつこく詰問されたのだ。同行していた上司は、なかなかでてこない私の身を按じ、空港職員に捜索を依頼する寸前だったとか。台北市内では訪問先に向かってバスターミナルを歩いていたとき、警察官に呼び止められパスポートと帰りの航空券の提示を求められたこともある。
そんな過去の悪夢が脳裏をよぎる中、気にしない気にしないというような、わざとらしい平静さをよそおって完全に自由な身になるべく出口へ急ぐのだった。さすが動物を愛する英国である。威圧的な税関職員につながれたシェパードまで私に不審な点がないか観察している。ここで突然走り出したら、10秒後には私はあのシェパードの刃にかかり職員に取り押さえられるに違いない。そしてシェパードは職員から角砂糖をもらい、尻尾を振って定位置に戻ることになるだろう。プリムローズヒルからロンドンの景色を眺めることなく強制送還されることは心外である。シェパード君には申し訳ないが、私は左右の足をスムースに交互に出しながら彼らの前から消えていくことにした。

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第5話 ヒースロー空港にて 入国審査 [ロンドン]

飛行機はヒースロー空港への着陸態勢に入った。窓から見える景色ではどこを飛んでいるのかわからない。まだ緑が広がっているのでロンドン上空というわけではなさそうだ。エンジン音が高まり車輪を出す音が聞こえてくると窓からは煉瓦作りの長屋風の家々が確認できる。とうとう帰ってきたロンドンに。12年ぶりのロンドンに涙こそこぼさなかったが私の興奮は最高潮に達していた。
「お疲れ様でした」「いってらっしゃいませ」というCAの言葉をうけながら私たちは前方の出口に向かった。12時間以上のフライトを終えた機内は、左右にあるシートのバックポケットは収納された機内誌が飛び出していたりして乱れ、床はイヤホンの入っていたビニール袋とかブランケットなどが散乱している。全日空が採用したエコノミークラスの中のハイクラスシート席プレミアムエコノミーや、ビジネスクラスも同様。私たちの航空運賃は往復二人で34万円。当初はせっかくの銀婚旅行だからと奮発し、ノーマル(通常)料金ではなく格安料金のビジネスクラスを利用することも考えたが、ロンドンに着いてしまえば同じこと。私はこれで50万円近くをセーブできたという満足感に浸っていた。
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機を離れると長い長い迷路のような空港内を歩き入国検査所を目指す。新ターミナルの建設が進む中、既存のターミナルはやがて消えていく運命なのか、随分と床や壁が汚れている印象を受けた。成田空港や羽田空港とは比べものにならない。ヨーロッパ圏内に住む人たちとは区別された入国審査所は待ち時間ゼロとはいかなかったが、グアムやハワイの空港のような長蛇の列はなかった。他の便で到着したと思われる外国人に混ざって同じ機で私たちの周囲にいた日本人たちの姿もちらほら見える。初めて外国で入国審査を受ける人たちは、たとえ団体旅行でツアーコンダクターが同行していたとしても緊張するだろう。1974年、JALパックでヨーロッパを訪れたときの自分のことを考えていたら私たちの順番がきた。審査は夫婦単位でも構わないので私たちは一緒に受けた。思えばロンドン留学を終えて帰国する際、出国審査所で「また英国に来るかい」とたずねてきた審査官に向かって「それは絶対ない」と答え「なぜだ」と質問されたことを思い出す。そのときは本当に自ら再度ロンドンにくることはないだろうと思っていたのだが、帰国して日を追うごとにロンドンへの想いは募り、今日があれから4回目のロンドンでの入国審査となる。優しそうな担当官はそれぞれのパスポートを開き、写真を見た後、私たちをちらりと見ただけで簡単にポーンと入国OKのスタンプを押す。本当に帰ってきたぞと実感させる響きであった。

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