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第97話 NHKアナウンサーが涙した最高の眺め [ヴェズレイ]

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今夕の教会訪問はヴェズレイの丘から見えるブルゴーニュの夕景を眺めること、さらに運がよければ教会内で生の賛美歌が聴けるかもしれない。しかし最大の目的はさきほど目星をつけておいた参道の食品雑貨店やチーズ専門店で今夜の食材、つまみ類を調達することだったのだが。
サンマドレーヌ教会への往路は商店が並ぶ参道を通らず、村人たちの生活が垣間見ることができる1本裏手の道を歩いた。この地で生活している人たちすべてが参道のお店やレストラン、教会内部の仕事に従事しているとは思えない。鉄道はないから車で近くの町の職場に通っている男たちもいるのだろう。家々は皆小さい。とはいっても庭がないだけで室内は私たちの日本の住居ト以上に部屋があるに違いない。家々の窓の外側には綺麗な花が飾られている。壁面全体を真っ赤な蔦のような葉で覆われた家もあった。陽が沈みかけている。私たちは寺院に向け足を速めた。
寺院を囲むように緑の木々と芝で覆われたサッカーができるくらいの広場がある。寺院を建造したときはそんな意図はなかったのだろうが、今は訪れる人たちにとって絶好の展望スポットである。夕方ではあるが何人かの観光客が眼下に点在する村々、その先に広がるブルゴーニュの風景に息することも躊躇うように感嘆している様子である。
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フランスの世界遺産を紹介したNHKの特別番組の中でこの場所から放送した女性アナウンサーはこの風景を見て涙を流していた。私たちがヴェズレイのことを知ったのも、ぜひ訪れたいと思ったのもその番組を見たからである。涙こそ流れてはこなかったが、こんなにも広大な眺めなのに音がまったくない、静寂そのもの、眼下の村人の誰かが家の中でワイングラスを落としだけでもその音が聴こえてきそうな雰囲気は体験したことがない。雲ひとつなく、ブルゴーニュの果てまで太陽がまるでご褒美を与えるように暖かい日差しを差し向けている。これが曇天だったら印象も変わっていただろうに。私たちは幸運だ、ついている。新婚旅行で訪れたスイスのピラトス山でも雲ひとつない晴天。山の頂に建てられたホテルの窓からルツェルン湖の全景や周囲のアルプスの山々がきれいに全て見えたのだ。この場所だっていつもこのような晴天ばかりではなかろう。私たちのために神が与えてくれた眺めに違いない。

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第96話 ゲイは身を助く [ヴェズレイ]

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ホテルへの帰路、緩い下り坂を歩いていると店外に様々な絵葉書を飾った店があった。絵葉書だけを売っている写真屋のようである。小さな入口から店内に入ると中は薄暗く、レジ前にも店員がいない。かろうじて商品である絵はがきが見える程度の明るさの店内を歩き、ヴェズレイやパリの昔の町並み、昔の子供を写したノスタルジックなはがきを何点か選んだ。だがお勘定をしたくても店員がいない。このまま立ち去ることも可能だった。エクセキューゼモアと何度か呼びかけるとやがて店員、というか店主と思われる中年の男が奥から現れた。彼は店内の照明をつけ、科(しな)を作ってレジ前に立つ。私たちが選んだ葉書を彼に手渡すと彼はいきなりペンを手に取り、それぞれの葉書の裏面、宛名を書く面に何かを書き出したのである。「人が買ったものに何をする」と叫びたかったが彼は一心不乱にその1枚1枚に署名をしているようだった。「ひょっとしてこの店内にある葉書はすべてあなたが撮影した写真を葉書にしたものなのですか」と尋ねると「そうだ」という。しかし顧客の了解もなくサインをするとはたまげた写真家である。かなり著名な写真家なのかもしれないと思い、彼の写真をとってもいいかいうとOKの返事。カメラを向けると彼は手を前で組み、若干、斜に構えてレンズを見る。その姿はどうみてもゲイだった。確認することはできなかったが。
一旦ホテルに引き上げた私たちは夕方近くに再度サンマドレーヌ教会を訪れるためにホテルをでる。さきほども寺院内部に入り、日本からの来訪者に日本語で説明するガイドと思われる人物の後を追い、つかず離れずと微妙な距離を保ちながらこの寺院の歴史、概略の説明に耳を傾けた。もちろん体は別の方を向き、あなたの話など聞いていませんよというスタンスで、耳だけダンボのように広げてガイドの話に集中していたわけだ。
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しかしそのガイド、どうやら来訪者が雇った本職のガイドではないようで、日本からきた教授らしき来訪者にただちょっと知っているので説明していただけのようだ。多分こちらの大学院あたりで学んでいる将来の准教授候補か。説明を受ける日本からのきた初老の来訪者は先生先生と呼ばれていたのだが、どうやら歴史は専門ではなさそうだった。ガイド役がマグダラのマリアのことなどを説明しても何も食いついてこないのだ。そんな話どうでもいいや、そろそろ日本食を食べたーいてな調子である。しかし私たちにはありがたいガイド役であった。

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