SSブログ

第103話 皿いっぱいの牡蠣を [オンフルール]

DSC00985.JPG
空も漆黒に染まった7時半過ぎホテルを出る。もう傘は不要だ。さすがに10月、夜になると海から吹く風の冷たさを感じる。港に行くと湾を囲むレストランには灯りがつき道路には今夜のお食事処を見つけるべく散策する観光客がかなりの数歩いている。開店と同時に飲み始めたグループもあるようで、時折そこかしこのレストランから叫び声やら大きな笑い声が聞こえてくる。
私たちは湾の周囲を一巡りした後、ディナーを楽しむべくレストランに入った。入ったといっても仰々しいドアを開けたわけでもない。間口も狭く、外にテーブルが4卓、中に5,6卓あるだけの小ぶりなレストランは扉も窓も開け放たれ、私たちがドアの外に立ち、「今夜はここで食べますよ」との意思表示をするだけである。私たちの存在に気づき、奥からテレビタックルに出ている政治評論家の先生のような頭をした店主らしきおじさんがでてきて、中で食べるか外で食べるかときく。もちろん奥さんが気兼ねなく煙草の吸える外の席を指定した。ヨットやクルーザーの間から吹いてくる風が多少ひんやりしても、煙草を吸うためには我慢できるようである。喫煙者の気持ちはわからない。温かいスープを味わい、冷えたワインをたくさん楽しめば、体は自然とあたたまるだろうし。
DSC00993.JPG
フランス語でしかかかれていないメニューを眺め、奥さんのたよりない翻訳を参考にテーブルを飾る食材を選んでいった。潮の香を感じながら牛肉を食べるような贅沢を私たちはできない。それぞれ異なるオードブルと魚介類のメインディッシュを選び、そして食材を引き立たせるバイプレイヤーとしてサンセールをオーダーしたのだった。旅行も終盤、特に600キロにもおよぶ、それも慣れない右側通行のドライブを終えて疲れきっている状態で生ものを食することは危険だとはわかっているが、新鮮なのだから当たるわけがない。妙な自信というか、ここで食わずしてどこで食う、というような意地が私にはあった。だからもちろん生牡蠣のオーダーも忘れない。大皿いっぱいに盛り付けられた大ぶりの生牡蠣が目の前に運ばれてきたときには口からよだれがあふれ出しそうだった。その夜、私たちがその店の最初の来店客であったが、てんこもりのソルベ(アイスクリーム)のデザートを平らげ、総額がちょうど100ユーロになるようチップの金額を書き込んだクレジットカードのスリットを店主に渡して店をでる頃には、何組かのお客さんで店は結構賑わっていた。
ホテルへの帰路、開店時間をたずねたときの態度の悪かったレストランの前を通ると、ギャルソンが外に立てられたメニュー盤の横に立ち獲物を捕まえようとしていた。だがその目は死んでいる。店の外の席には誰も座っていない。店の中にもひと気は無い様子。テーブルを覆った白いテーブルクロスもきれいなままのようだ。日曜の夜は短い。間もなくラストオーダー、そして閉店ガラガラとなろう。今日の売上はゼロというところか。私はギャルソンに日本語で「今夜はチップも取り損ねたし、儲けそこなったな。ざまあみろ」と笑顔でつぶやきながら彼の前を通り過ぎた。

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

第102話 露店荒し [オンフルール]

DSC00972.JPG
店の大半は外にはすでに何席かが置かれていたが、テーブルクロスやキャンドルスタンドなどはまだセットされていない。しかし店の内部には真っ白なテーブルクロスがかけられたテーブルが見える。それなりのグレードの店なのだろうと思った。私たちがメニューを見ていると外の席のセッティングをはじめるのだろうか店から中年のギャルソンがおでましになった。奥さんが「お店は何時から?」とフランス語でたずねると、そのギャルソン「7時半」と無愛想に答えた。「ここはお前らの住んでいる極東の小国の食堂とは違うんだ。ディナーは8時ごろからゆっくりと楽しむんだよ。お前らみたいのが店にいると他の客が入りづらい。他のもっと安い店で食べな」とでもいいたいような応対であった。私たちはギャルソンの無礼な態度に呆れ、ここでは死んでも食べてやらないと誓った。今夜お前のその態度で数百ユーロ儲けそこなったなと呪いつつメニューの前から消えたのである。
DSC00974ss.jpg
メリーゴーラウンドのそばには獲りたてで新鮮な小エビを焼いて販売する屋台があった。赤ら顔のいかにも漁師の奥さんという感じのおばさんの人なつこい笑顔につられ私たちはオードブル代わりにそれを買い求めその場で食べた。獲りたて焼きたては美味いに決まっているが、湾外から流れ込む潮の香りが小エビの美味しさを倍増させる。トレボンを連発しているとおばさんが、背後からボトルとりだし、そばにあったコップにつぎだした。ワインにしては色が変だとおもっていたら、地元ノルマンディー名物カルヴァドス(葡萄ではなく林檎を原料とするブランデー)だという。お金はとらないから飲みなさいというのだ。私たちは拒む理由もないのでありがたくいただいた。
時計を見ると6時半近く。オンフルールもようやく夕暮れという雰囲気になりつつあった。私たちは魚介類のパテやテリーヌの缶詰だけを販売する小さな店で、かさばりはしないが結構重量のあるお土産を数点購入。ホテルに一旦もどり、ディナーに向けて体調を整えることにした。

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。