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第111話 運転から解放され自由の身 [パリ]

事務所に入るとやはり男がひとりで店番をしていた。男が車はどこかというので目の前に駐車しているオペルを指差す。すると車体のチェックをするのでさらに事務所近くまで車を移動するという。少しでも明るいところで丹念に検証しようというのだろうか。男が僅かな移動のためハンドルを少し切るたびにタイヤがキーキー鳴り駐車場内に反響した。車の周囲、下回りを点検し無傷であることを確認すると契約書の控えを返却してくれた。満タン返しに匹敵するガソリン代金を契約時に支払っているので追加料金は一切かからない。1週間1100キロあまり私たちとともにフランスを縦断したオペルともここでお別れである。私は無事にこの場に立っていることを神にそしてこのオペルに感謝せずにはいられなかった。
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しばらくすると奥さんがエレベーターから降りたった。しかし表情は曇ったままである。トイレがないというのだ。私は大きなスーツケース2個、ボストンバッグ、そしてヴェズレイで購入した杖をもってエレベーターに乗りこみ地上に向かった。エレベーターをおりた1階には店はなかったが人通りが結構ある。上に商業施設があるせいだろうか。ここにトイレがないわけがない。少し先にエスカレーターがあったのであそこを昇っていけばお店があるから誰かにききなさいと私は奥さんにいった。奥さんは再び不自然な動きでエスカレーター方向に歩いていった。
今いるモンパルナスからホテルのあるカルチェラタンまではそれほど遠くないことはわかっている。かといってこの大荷物をひきずりながら歩いていける距離でもない。パリ市内に入ってからよく見かけたワゴンタクシーを捕まえればこの荷物も問題ないだろうと私は思った。しばらくすると奥さんがすっきりした顔でエスカレーターを降りてきた。どうなることかと思ったという。事態は私の想像以上に深刻だったようである。私たちは大荷物を引っ張りながらビルの外へでた。

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第110話 奥さん顔面蒼白トイレがない [パリ]

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男の指示通り事務所の先を右折し激流をしばらく走ると確かに交差点にでくわした。といっても銀座四丁目の交差点とはわけが違う。放射状に伸びた少なくとも6本以上の道が交差しているのだ。ヨーロッパ独特、合理的ではあるが、慣れない者には一生ここを回り続けなければいけないのではないかとの恐怖すらおぼえるラウンドアバウトである。パリ西部を彷徨い、市内の交通量の多い道路を結構な距離走ったが、これほど大きなラウンドアバウトは初めてである。神が与えた最後の試練か。私は意を決して輪の中に入った。1周目で希望の道に合流できれば大成功である。私は前後左右に目をくばりながら中央よりの車線に紛れ込み、今来た道と反対側の道路に入るべきチャンスをうかがった。目標の道を見つけ、今度は中央車線からその道めがけて車を右車線に移動させる。その間にも他の道路から車は合流してくるわ、手前の道路で右折する車はあるわ、まさにラウンドアバウト内は無法地帯である。私の行為を非難していると思われるクラクションも何度か耳にしたが、そんなことを気にしていてはパリでは生きていけない。そして私は何と1周目にして希望の道に進入できたのである。あとは道なりに走り高層ビルの地下に車をすべりこませるだけである。
高層ビルのPの看板は容易に発見できた。地下につながる下り坂をゆっくり進んだ。やがてゲートに到着。駐車券を引き抜き、さらに地下を目指した。らせん状の地下道をしばらく走ると奥さんがハーツの黄色い看板を見つけた。今度こそ間違いない。私はハーツが借り上げているであろう事務所前の駐車スペースに車をフロントから突っ込んだ。エンジンを切ると全身の力が抜ける。今度こそ本当に二度とクラッチを踏まずにすむと安堵した。後部のドアを開きスーツケースを下ろしていると奥さんの様子がおかしい。最初のハーツの事務所に到着する前から口数は減っていたのだが。目的地近しの安心感がそうさせていたのかと思っていたらどうやら違うらしい。またしても便意をもよおしているようだった。私は、荷物を下ろしてから事務所で返却手続きをするから用をたしてくるように言った。この高層ビルには商業施設やホテルもあるのでトイレは容易に見つかるはずだ。奥さんは不自然な歩き方で近くのエレベーターに消えていった。

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